そして、朝
朝(二)
味噌汁を啜る真名子の姿を、都はぼんやりと眺めていた。真名子の眼は、一夜明けてもやはり充血している。起き抜けの今でこそ、少なくとも外形としては幸せそうだけれど、どういう心情でいるのか、推し量ることはできない。そうしてはっきり覚醒した後で、改めて何を思うのか。何もわからない。私は真名子ではないから。
突然、真名子が慌てて椀を下ろし、「みゃこちゃん、ティッシュどこやったっけ」と訊いてきた。不意を突かれて、え、と呆けていたら、真名子は右手で口許を隠し、左手でせわしなく指す。空いたラブレットのホールから味噌汁が漏れたらしい。きっと例の男と付き合っていた頃に空けた穴。そいつの好みで空けたの、なんて、決して尋ねられない。
あの穴は埋まるだろうか。埋まるところを見届けたいと都は思った。埋まってもらわないと困るのだ。私といる限り、これ以上、一滴も零してほしくないから。
都が身を乗り出す。彼女の右手は、箱ティッシュではなく真名子に向かう。ほっそりした人差し指がやわらかな唇に触れて、滑り、穴の縁をゆるやかになぞって、濁った雫を掬い取った。
驚いて固まったままの真名子の前で、都は人差し指を嘗めた。零れ落ちてしまうなら、いくらでも自分が嘗め取ってあげよう。少なくとも、宝石みたいな彼女の眼に齧り付く、なんて馬鹿な真似より余程いい。塩味を舌の上で転がしてから、都はにっこり微笑んで見せた。
「ホール。塞がるといいね」
味噌汁とラブレット 冴草 @roll_top
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