前夜(二)
二人で住むマンションに着くと、都は部屋の鍵を開け、ぐったりした真名子の背中を擦りながら居間まで連れていく。
上着を脱いでから、都は冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーを揃いのグラスに注ぎ、自分のグラスには牛乳を加え、卓に置いた。二人はほぼ同時に口を付ける。一息ついて、真名子の話は続く。
別れ話をしてから二週間後、男から連絡があった。その間ずっと途絶えていて、これは今までなら考えられない事だった。恐る恐る開いたメッセージの内容は、意外にも「ようやく気持ちの整理がついた」から始まっており、君の言いたいことはわかった、部屋に置いてある俺の荷物を持って来てくれ、自分も返すものがある、というもの。
次の週末、真名子は借りていた漫画、彼しか飲まなかったお酒等を旅行用のトランクに詰めて、彼の家に上がった。確かに真名子が彼の家に置いていったもの、忘れていったものは、きちんと寝室の床に並べてあった。
空にしたばかりのトランクに自分の荷物を詰め終えたとき、かがんだ状態だった真名子はそのまま床に押し倒された。男が覆い被さり、何度も無理やりキスをして、服を脱がせようとする。悲鳴を上げた。ドアも窓も閉じられていて、どこにも届くわけがなかった。とにかく抵抗した。暴れる真名子の首筋に、生温い吐息がかかる。不届き者は一文だけを繰り返した。俺たち、いいカップルだよな。いいカップルなんだよ。
と、ベルトに掛かった相手の手から急に力が抜けた。肘がたまたま彼の鼻を打ったのだ。彼が呻いている間にうまく抜け出した真名子は、脇に放り出されたトランクを掴んで外へ駆け出した。
部屋に帰りついた彼女が最初にしたことは、ドアにチェーンを掛けること、着替えることと、その日の服と荷物を出来る限り捨てることだった。
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