お詫びの一話『耳鳴り』と、本当のあとがき

 まずは先にお詫びいたします。本日の話が、本当のお終いになります。

 前回のラスト、実際に憑いているのかどうかは、さすがに確かめられません。なのでノンフィクション率も分かりませぬ。申し訳ありません。13という数字に気づいてしまった私が悪いのであります。

 ですので、今回は、お詫びの一話と称し、『耳鳴り』の話をさせていただきます。

 

 皆様は耳鳴りを持っておられますか?

 ピーン、キーン、ゴウゴウ、ゴー、などなど、様々な音が聞こえるアレです。頭の中で鳴っているのか、耳元で鳴っているのか、なかなか区別できませんよね。

 特にパソコンをよく使う方は、冷却ファンの音なのか耳鳴りなのか分からない、なんて経験もあるかと思われます。

 

 私の場合は換気扇です。我が家の換気扇のひとつが、油切れもあって結構な高周波音をたてるのですね。もちろん油を差せばいいのですが、まず軸までたどり着かないといけないので、ついつい後回しになっています。

 すると当然のこととして、同じリズム、同じ周波数の耳鳴りめいた音を、聞き続けることになるのですね。


 さて、耳鳴りにはいくつか種類がありますが、普段は気づかなくても、就寝時などの静かな時に表面化したりするのです。

 もちろん正常な人でも例外なく、音の少ない空間で静かにしていると、手塚治虫が初めて漫画表現したともいわれる「シーン」という、耳鳴りがし始めるはずです。

 そして私の場合、その生理的な耳鳴じめいの音が、換気扇とよく似ているのですね。


 それこそ、換気扇を止め忘れたのかと思って、起きてしまうくらいです。もちろん換気扇は回っていません。適当なところで止めるのは常識ですからね。

 何度かそういうことを繰り返すと、その内に耳鳴りにも慣れが出てきます――。

 ――が、煩わしさは変わりませんからね。しかも耳鳴りは耳栓をしていても聞こえてきますから、いっそ上手く付き合っていくしかありません。


 以前から寝つきの悪い私は、考えました。

 耳鳴りは一定の高さ、リズムがありますから、睡眠導入に使えませんかね、と。

 物は試しでありますよ。

 耳栓をしても聞こえてくる、油切れの換気扇のような音に、耳を澄ましてみます。

 最初は小さな音で聞こえました。


 ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 

 といった感じです。

 最初は神経を張って、音を手繰り寄せます。耳鳴り以外の音を小さくするんです。

 相対的に耳鳴の音量があがります。


 ――キィィィィィィィィィィィン……

 

 と、だいぶ音が近くなります。というか、頭の中で聞こえるかのようです。

 さらに神経を集中しまして、音をより分けるようにして、耳鳴りの中心へと意識をを向けていきましょう。例えるとするなら、オーケストラで特定の楽器の音を追うような、あるいはハードロックの中でピックの擦れる音を探すような感じです。

 そういうとき、いらない音は消えるのが普通なのですが、耳鳴りは少し違います。


 ギィィィィィィィン!

 

 と、聞きたい音が、どんどん大きくなっていくんです。

 こう書くと不快そうだと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。自分の頭の中で作っている音だからなのか、むしろ少し面白い感覚なのです。

 もっと深く、もっと奥へと、耳鳴を作る脳内のスピーカーに耳を寄せていきます。

 幽かなノイズがあるようですね。何の音でしょうか。耳をさらに澄ませます。

 

 ドッ。


 それが聞こえた瞬間、私は飛び起きました。

 慌てて耳栓を取り、あー、と声を出しました。聞こえます。ですが骨伝導で聞こえているだけかもしれませんから、スマホに録音して再生してみます。聞こえます。

 私は安堵の息をつきました。

 心臓の鼓動が、なかなか落ち着いてくれませんでした。

 

 私は耳を澄ませてみました。生活音に混じって、耳鳴りが幽かに聞こえます。

 ですが、私は、もう追おうとは思いませんでした。

 耳鳴りを限界近くまで追いかけていった、あのとき、聞いてしまったのです。

 ふ、と音が消えたかと思うと、突然、耳をつんざく轟音が鳴りました。

 

 それは、明らかに、人の怒声だったのです。

 

 夜の静けさが、耳鳴を呼び戻します。

 私は、耳鳴りを遠ざけ、風の音を聴きとるようになりました。

 明後日の方向に風を送る扇風機。

 いまでは、その音がなければ、眠れなくなっています。

 


 

 はい。これでお詫びのお話、『耳鳴り』を終わります。

 ここからは、本当の『あとがき』になりまする。

 まず、なんでこんな話を書いたのかと言いますと、実は自分で考えておきながら、13番目で話をおしまいにするのは、気味が悪かったのですね。

 というのも、世の中には下らないけど気になるジンクスというのがあるのです。


 たとえば、クラシック交響曲の世界には『第九の呪い』というのがあります。

 ベートーヴェンが第九を作って死んだという事実に端を発するのですが、後に幾人かの作曲家が第九を回避し先に10番以降を作ったりしました。

 そしたら死ななかったので、大丈夫じゃーん、なんて言って九番作ったら死んでしまいました、なんて逸話もあります。


 もちろん、圧倒的にので、ジンクス以外の何物でもありません。けれど気にしないよりは、気にした方がいいときもあるものです。

 というわけで、全十三話ではなく全十四話にしたかったのです!


 ……困りました。もう、あとがきとして書くことがなくなりました。

 えと、前回のお話でフィクションなのは『憑かれました』だけなので、ちょっとノンフィクション成分が多すぎる、くらいですかね?

 なので、代わりに(?)全体の構造について、少しだけ作者の意図を書かせてください。これでも一応、考えていたのですよ、ということです。


 本作では、『私の年代』と『話の質』で、一定のリズムを作ろうとしていました。

 まず『私の年代』については、幼少期から始まり大人になって、また子供へと回帰していきます。

 それに対して話の質は、疑心暗鬼からはじまり、だんだんと怪異へ移行し、最後の野辺送りでは怪異なのか疑心暗鬼なのか分からない、というオチに導いています。


 私としては、最初と最後の微妙なズレが不気味な雰囲気を作ってくれるのではないか、と期待していたわけですね。実際の効用のほどについては分かりません。

 ただ、不安定な感触といいますか、座りの悪い流れに心がザワついてくれるといいなと、それくらいの気持ちで並びを編集しておりました。

 もし気に入って頂けたのなら、幸いなのです。


 前回の話があの形でしたので、私がどこまで本気なのか、信じがたいところがあるかと思います。

 改めて申し上げますが、前回の話でフィクションなのは、最後の『憑かれました』だけであります。他はすべて本当の情報となります。

 信じるか信じないかは、あなた次第です(こんなこと書くからいけない)。


 ともあれ。

 こんなところまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

 皆様に幸あれ、怪異あれ。

 願わくば、書かずにはいられないような恐怖体験が訪れますように。 

 私は、そうなる日を、切に願っております。


 ではまた、いつか、どこかで。

 皆様に良い怪異がありますように。

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ノンフィクション78% ~1人語りの怪談話~ λμ @ramdomyu

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