03_箱の外にはそりゃあ箱の名前は付かないわな
「センセイ? まだ復帰しないの?」
『お待たせしました、復帰しました』
センセイと呼ばれたアンドロイドは仮想箱へ入るための装置を外し、上体を起こして返事をする。半透明な目のパーツや機械的なフォルムを残した各パーツ。明確にある一定のラインまでしかヒトに似せないタイプのアンドロイドだ。声は穏やかな女性のものを搭載していて、カチューシャのような頭部のパーツや身体輪郭の一部は女性らしいデザインを選んである。
『ミカエル様、次はあちらの箱に向かいましょう』
センセイが声をかけたのは少年とも少女ともつかぬ無垢な子どもだった。ミカエル“様”という呼び方や敬う態度は、ミカエルを寵愛する両親がセンセイの“持ち主”であるからに他ならない。センセイはその名の通りミカエルの(ある分野における)先生役であり、しかし両親の命令はもちろんミカエルの命令にもセンセイは絶対服従であるのだ。主従関係と師弟関係は別の話。命令一つでセンセイは破棄される。完成と呼べる時期を経た人工知能がそのとき何を思っていたとしても、アンドロイドとはそういうものだった。裕福な層は往々にしてその辺りに軽薄で情が無いらしい。
「センセイ早くー」
『はいミカエル様』
二人は別の仮想箱に向かう。
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