明日、この世が死ぬとしたら

始めに断っておくが、私は作者・梧桐彰氏のいわゆる固定ファンである。
氏の作品はことごとく私にとって琴線に触れる傑作良作ばかり。未だかつてハズレと感じたことはない。

しかしながら、今作に関しては当初非常に困惑し、読むかどうかをかなりためらった。
なにしろ内容が「ゾンビを日本刀でぶった斬る話」である。
ゾンビといえば、半死人が徘徊し、生者を襲い、かくして世界は亡者の王国となったのでした――そんなB級映画のイメージしかない。
この作品は本当に大丈夫なのか? いくらなんでも、私の好みに合わないのでは?
そんな一抹の不安とともに読み始めた。最悪、口に合わなければそっとブラウザを閉じればいいのだと呟いて……。

不安は杞憂だった。
やはりこの作品、最高に面白い。

まずこの作品に登場するゾンビとは「自立歩行する災害」だ。
ある日突然、前触れもなく現れて、日常を破壊する、地震や台風といった災害の象徴なのだ。
この物語の基本骨子は、その災害の中でどのように生き延びるかにある。
気合いだとか根性だとかは通用しない。たった一つの判断違いが危機を招く。綱渡りのような恐怖がある。それを乗り越える術が一つ一つ登場する。恐怖が薄れ、希望が見えてくる。
言うなればこれは「対ゾンビ災害対策マニュアル」。これを読めば明日この世が死んだとしても、生き残る確率がぐっと上がるに違いない。

そしてサブストーリーとして、主人公の人間的成長と恋模様が描かれる。
死の権化が徘徊する中を、たった一人のために歩めるか?
それも、焦ることなく、冷静なままで。私なら30分で退場すると思う。

また一方で読者を楽しませてくれるのがアクションだ。
なにしろこの歩く災害、幸か不幸かぶっ殺せば死ぬのである。
主人公は剣道、またそこから昇華させた剣術を扱う。それ以外にも多種多様な武術を身に着けた人物が現れ、それぞれの特色を活かしながら死者に引導を渡す。
やっぱり梧桐作品はこうでなくっちゃ!

そんなわけで、ゾンビものという部分に不安を感じる必要はない。
敵を退け前に進む、進み続ける。これはそういう物語だ。

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