カネサダを北極星へ向けろ

梧桐 彰

プロローグ

 誰だって、布団に入って目を閉じたときに空想するシーンがあるでしょ?


 それと同じさ。


 夢の中で、僕は無敵のチートヒーロー。ヒロインを助けるために伝説の武器を持って、これから怪物の大群相手に無双するんだ。ただ、今回は普通のゲーム的な空想とはちょっと違っていて――


 まあいいや。とにかくこれから格好いいクライマックスなんだ。よろしくね。


 夕方五時。縁石から立ち上がる。目の前には人間の形をした人間と違う生き物。崩れかけの体をたどたどしく引きずる、生き死にの間をさまよう奴ら。


 指で四角を作って、その中に何体いるか数える。正確な数字を把握するのがこのゲームのポイントだ。数と時間を計算して、効率よく突破する方法を考えるんだ。このイベントは少し長いけど、二時間もすれば楽々クリアできる予定。レベル上げは十分だし、アイテムもたくさん集めたし、チートしてるやつまである。囚われのヒロイン(幼なじみ属性)はめちゃくちゃ可愛いし、しかも無課金。最高だよ。


 さて、腰のベルトに無敵の日本刀、会津あいづ兼定かねさだをたずさえて、怪物の集団へ突っ込もう。


 勝てるに決まってる。

 だって、僕はヒーローだ。

 ヒーローは負けない。

 ヒーローは疲れない。

 ヒーローはヒロインを救い出す。


 そして、ハッピーエンドを迎えるんだ。

 

 まあ、多分ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る