人が人の生命を、魂を操ることは許されるのか。それがたとえ、大切な人のためであっても?
人間の魂を操る術を得てしまった人々が織り成す、いびつで美しい物語でした。
なんと言っても、愛らしい存在感を振りまくヒロインの御影が可愛い。
彼女に対する主人公の桜花の葛藤と苦悩もまた、生々しく描かれていました。成熟した見た目と、庇護欲を掻き立てられる無邪気な子供の魂。そんな彼女のギャップに煩悶する様が読ませます。事情はどうあれ、どうしたって二人の関係は男と女。子供らしさが時にはコミカルですが、ハラハラさせられたり、男としての理性を試される一幕もあったりで、飽きさせません。
彼女を絶対に守る!と強い決意を抱く桜花ですが、ただ一人で少女を守らんとする姿は悲壮以外の何物でもなく。彼のあり方が果たして正しかったのか、そういう点も考えさせられるところですね。
二人の微笑ましいやり取りを読んでいると、いつまでも幸せでいてほしいと願わずにいられません。しかしどこまで行っても、物語全体を貫く不穏さが拭えない。油断ならないピリッとした緊張感が、非常に良い味です。
より多くの方に、物語の結末を見届けてもらいたいと考えます。
この作品は主人公桜花の抱える葛藤が細やかに、現実的に描かれている点がまず印象に残りました。追手の追跡を躱しながらの逃避行は臨場感に溢れハラハラさせられます。
だからこそヒロイン御影との平穏な時が愛おしいと感じる主人公の気持ちに説得力があり、読者に共感を抱かさずにはおかないのではないでしょうか。
主人公の末路は貫井徳郎氏のとあるミステリー小説(*下、ネタバレ注意)を思わせます。本当に求めているものは、既に手に入ることはないでしょう。主人公はそれを実は知っていて、それでも自分のパラノイアに囚われてどうすることもできずにいるように思えます。仮に御影が桜花の求めていた姿に戻っても、御影との関係はもはや変質していてかつてのような絆は結べないでしょう。
このエンディングは新たな物語の幕開けとなるのか、今後が楽しみです。もし続編が出るなら、御影の逃亡を別の誰かが助け、桜花と対決することになるのでしょうか。そんな空想をつい抱いてしまいます。
約六万二千文字超の本作ですが、構想や演出を膨らませて長編小説にできるだけの下地は十分にあるように思います。何年でもお待ちしておりますので、作者様には是非頑張って頂きたいと思います(笑)。
(*)ネタバレ注意:「慟哭」
作者さまの作品を評価するのは三度目になります。全てに共通するのが、歪な世界設定だとしても、登場人物たちの心理を深く掘り下げ、とてもリアルに描かれるということです。
本作品もその点は見事でした。まずは設定の歪さからくる独特の緊張感、登場人物たちに与えられた設定、それらが融合した世界で、主人公が苦悩する姿は、まさに恋は盲目という言葉に通じるところがありました。
ラストはバッドエンドのタグ通りですが、主人公の内面が詳細に描かれているため、そうなってしまうのは仕方がないと思えました。
狂気と純愛は紙一重。そう感じさせてくれる良作でした。ぜひみなさまも一読されてみてください。こうした愛の形を取るのも、結局は人間だからと思うと、何だか切なくなりますよ!!
内容はタイトルの通り、18歳の少女の中に5歳の魂が入れられた話です。
生贄少女という字面から予想されるような、グロテスクな表現も無く
どちらかと言うと主人公は正義のヒーローっぽい活躍を見せます。
しかし、バッドエンドのタグがあるように、メデタシメデタシで終わる
こともありません。主人公が生贄少女のために悩み、苦しみ、そして
自分の生きる意味を見つけ出す。その後に待ち構えていたもの、
果たしてそれは誰のためになるのか?
それがバッドエンドの正体となっています。
バッドエンドでも、読者に考えさせるバッドエンドはハッピーエンドに優る!
つまりは、こういうことでしょうか。