竜に滅ぼされた国で、さらに人からも棄てられた隻眼の少年は、竜の姫君に拾われてかの国で身を立てていく。
こういった戦乱の世の群像劇は、ともすれば壮大に冗長になるものだけれど、星舟を中心としたエピソードの切り取り方が見事で、展開は序盤からとてもスピーディ。映画を観ているようにぐんぐん引き込まれます。主人公は冷徹な野心と、ヒトであるハンディキャップをもつ星舟。のきなみそろった群雄たちのなかにあって、最初は卑小さが目立つこの青年の、一筋縄ではいかない側面がしだいに魅力的に思えてくる。予想を裏切って期待を裏切らない展開に、かいまみえるドライなユーモアもたまらなくかっこいい。
作者様コメントで「漏斗型パワーバランス」と言われる女傑ハーレムは、一瞬も気を緩められなさそう。ファンのみなさまと続きを楽しみに、貞淑に待ちたいと思います。
竜により人の国が滅ぼされ、世は竜に支配されていた。圧倒的な強さを持つ竜に、しかし人は叛旗を翻す。この物語の主人公夏山星舟は、竜へ叛旗を翻した人の宰相――ではない。彼は人でありながら、竜あらざる竜軍の将だった。
竜軍の異端の将。もちろん有能であるから登用されたわけだが、誇り高い(言い換えれば傲慢な)竜の侮蔑の受皿であり、同時に嫉妬の矢の的である。彼はくやしさをばねにして邁進し、一部の竜とは真の友誼を結び、汗と涙と感情を迸らせ一丸となって戦うだろうか。否。
夏山星舟は冷笑的(シニカル)であり、純粋な青年である。歪つでありながら、真っ直ぐ。リアリストでありながら夢を見る。一見相反するこれらの性質には、実は矛盾がない。一体どういうことなのか――ぜひ本文を読まれたしと思う。
そして深謀遠慮張り巡らされた戦記物としてもちろん面白いのだけれど、個人的に着目するのが星舟を巡る関係性の物語だ。彼を拾った竜の姫君、その父である東方領主、次期当主たる兄、竜の猛将、寄せ集め隊の部下、挫折を知る怜悧な副官、人の国の女王、女王に才気を認められた音楽家。アクの強い人(竜)物ばかりだが、その関係性も一筋縄ではいかない。尊敬や信頼などは通り越し、複雑な想いに彩られ、絡みつかれながら物語は進む。ぜひ、見届けたい。
瀬戸内弁慶先生が送る、和風ファンタジー戦記。
ヒトが竜との戦に敗れ、その領地の多くを征服された世界。ヒトは劣勢の中でなお、己の誇りを懸けて抵抗を続けていた。
その一方、竜の陣営に身を置くただ1人のヒトである隻眼の青年は、天性の知略を武器に寄せ集めの部隊で武勲を上げ続ける。同じヒトが相手であろうと、敵であるなら容赦はない。
権威、武力、財力。それら全てを手中に収め、星の彼方に等しき高みへ駆け上がるため。自分を蔑む内部の敵も、何もかも利用し尽くし、彼は己の道を突き進む。
その果てにある未来は、栄光か、死か。是非、あなたの目で確かめて欲しい。