重なる15cm


 浴室から出てくる妻を待つ間、僕は、いつかのハーブティーを探して、ポットに沸いたお湯をそそぐ。


 居間のテーブルの上には、ちょこんと、不格好に巻かれた包帯と、新しいガーゼの入ったパッケージ。そして医療用の、細い紙テープが置かれていた。


「キミちゃんって、やっぱり変わってるよね」


居間のテーブルで、向かいあわせに座った妻が、僕に右腕を差し出している。まるで、直線的なみみずばれを複数起こしたような具合だ。赤く、てかてかと光って盛り上がった傷跡は、まだ所々、かさぶたが付いている。


「痛い?」


僕が尋ねると、妻は困ったように首を傾げた。


「痛いと言うより、時々、むずむずする。腕が傷をおぼえている感じかな」


「そう」


僕はガーゼを取り出し、傷を覆える大きさに四角くカットして、妻の右手に載せる。また紙テープをプチプチと切って、ガーゼを腕に固定する。


「ねぇ、若菜、女性の腕の周りの長さって、どのくらいの長さか知ってる?」


僕はそう言いつつ、包帯の端を持ち、最初の一巻きに取り掛かる。


「ううん、知らない」


まっすぐに伸びる腕に垂直に当たるように、加減して包帯を引きながら、二巻き目。


「15センチだって。個人差はあるけど」


包帯が重なる度、わずかに腕を閉める圧は大きくなる。そのため、巻き始めのときより、少しずつ緩めに、でもずれないように巻いていく必要がある。



「キミちゃんて、本当に器用だね。包帯を巻くのもうっまーい」


妻の腕から目を離し、彼女の表情に注目する。



「で、ごめんね、若菜。もう一度手を出して」


僕の仕事に感心していた妻が、何だろうという顔をして、右手を差し出す。僕は、今しがた止めたばかりの留め金を外し、くるくると包帯を外していく。


「なんで? キミちゃん、上手く出来てたよ」


慌てる妻をよそに、包帯をすべて巻き取ると、僕は立ち上がり、妻の背中の方へ回る。



「ね、若菜」


背後から覆いかぶさるようにして、僕は自分の右腕を、妻の右腕の横に並べて見せる。


「若菜の包帯。少し、短いと思うけど、僕の腕に巻いてくれる?」


「え、どうして?」


僕は妻の問いに、少し逡巡しながらも、こう答えた。



「君が、自分の腕に傷を付けたとき、僕の腕にも、同じような傷が出来たんだ。見えないだろうけど、すごく痛い。だからお願い、同じように僕にも巻いて欲しいんだ」



妻は一言、「わかった」と答えた。



fin.





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締めすぎないで弱めないで ミーシャ @rus

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