5
「ふう……」
大きく息をつく。
外は相変わらずの曇天だったものの、軽く水気を拭うと僕は
なんだか落ち着かなかったのだ。女の子の家で、しかもその子と二人きりなんて、初めての経験だった。
静上さんは飲み物でも出そうとしていたが、いつ家の人が帰ってきて鉢合わせるとも分からないから、僕は遠慮して、また明日と言って別れた。
外に出ると冷えた空気が心地好い。雨は小降りになっていた。今のうちに帰ろう。
壊れかけのビニール傘を開いてポーチを出る。
不思議と足早になりながら、僕は雨音の聞こえる住宅街を歩いた。
新しそうな雨合羽を着た子供がはしゃいでいる。僕もそうして雨に打たれようか、そんなことをふと考えるほどに顔が熱い。
胸の動悸が治まらなかった。
いつもと違った帰り道を一人、進む。
自宅アパートに到着すると、隣の部屋に住んでいる女性と出くわした。なぜだか彼女はびしょ濡れで、白いブラウスが透けて中の下着が覗けていた。思わず目を逸らす僕に苦笑交じりの微笑みを向ける彼女は、それでもなんだか清々しい顔をしていた。
大人もいろいろあるのだろう。漠然と思う。
誰もいない部屋に帰りついてから、少しだけ後悔した。
もう少し、お喋りでもしていれば良かったかな。
雨宿りでも言い訳にして。
――また明日。
憂鬱な日々に光差す。
交わした言葉を思い出すと、晴れやかな気持ちになれた。
……明日が楽しみだ。
また雨が降ったら、図書室に行こう。
雨の日と君の声 人生 @hitoiki
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