第7話 委員長、あなたのせいで俺の周りにはギャルゲー要素設定増し増しキャラしかいません

人は見かけによらない、とはいうが。そういう例を俺は身近で体験できている。


「いつきちゃんも、大変よね。まあわたしはみていて楽しいけれど」

「勘弁してよもう…ミキは楽しいかもしれないけれど、俺はたまんないから…」


目の前で爪やすりをかけてはフッと指先に息を吹きかけて大きな瞳を向けるのは僕のクラスメイト、河合幹雄。うん、こんなに女子っぽい口調なんだけど、みきお、っていう男らしい名前なんだ。彼は見た目こそクールビューティなイケメンでモデルかと思うような美青年なのだが、いかんせん中身は女子力の塊である。好きなものは美容系グッズ収集、美しいもの、かわいいものなどなど…ちなみに食事に関してはこってりラーメンが好きらしく、そこは男子高校生らしいとは思うが。見た目こそイケメンであるが口を開けばオネェ口調の姉御なので完全に詐欺だ。まじで設定盛りすぎ、という奴である。

あけすけにものを言うのは俺は好感が持てるのでクラスでは仲がいいしいつもつるんでいる。


「ミキだけじゃなく俺も今後のいつきちゃんのラブコメに期待してるからな〜」

「…だまれ」

「まあそう言わずに!今度は後輩ちゃんもきたんでしょ?超絶楽しみじゃん〜はぁ〜またネタを供給してくれるなんてっ、いつきちゃん愛してるっ」


この減らず口の見た目ヤンキー、中村京介は同人作家である。どこまで風通しをよくすればいいのか分からんほどに耳に空いているピアスはそれだけで近寄りがたく、茶髪に染めた髪はワックスでセットされている。タレ目はどこか愛嬌がある。しかもイケメンなのでそれが妙に高校生では醸し出せない色気をはらんでいるのだ。この時点で設定盛り込みすぎだろギャルゲーか、というツッコミがまたも飛び交うであろう。

彼は絶対にかかわりたくない人種だが、どうして俺がそんな彼と一緒にいるのか、すべては彼が同人作家、という一点で処理ができてしまうのが嘆かわしい。

委員長に絡まれすぎていた俺に対して「ねえねえいつきちゃん、委員長に告白するなら相談に乗るよ?どうせなら誘ってチューしちゃえばいいんじゃないかな、俺的に小悪魔平凡誘い受けとか萌えると思うんだけど!」これ、初対面。もはやドン引きを通り越して恐怖だった。俺の反応を知っていても尚自身の興味のために突き進む、そういう男だったのだ。第一印象は最悪だったが、それから彼の方から話を聞き出され…話をするうちに思ってたよりいい奴ということに気づいたのだ。まあ鼻息荒く近況を聞く彼は生き生きしてるし、何より見た目ヤンキーだけで中身は完全オタクだから話しやすいということもある。


…こんな二人に順応している俺が怖くなる…委員長のせいで耐性がついたのか…恐ろしいウイルスだな…


「ほんとーにいつきちゃんは一緒にいてて飽きないわよね。ほんとにかわいいし」

「ほんとだよな。いや〜こんな素晴らしい美形攻め平凡受けBLが近くにあるなんて〜まじ筆が進む〜」


「なんで俺はお前たちと仲良くなってるのか不思議だよ…まあでもミキと京介といるのは気が楽だし疲れないからいいんだけど…」

俺がポロリとこぼした言葉に、二人は目を合わせて驚いた表情を見せると、ニンマリと笑った。美形は何しても美形だな。

「はぁーい、いつきちゃんのデレいただきました!最高に可愛いわよだいすき」

「いつきちゃんのそういうとこほんとずるいわ、それを自然と少しの照れを織り交ぜて組み込んでくるあたりやっぱり俺が認めた男だよ、おまえは!」

「…黙って…」


俺は平凡なはずなのに周りがキャラが濃すぎるせいでいつも「太田くんは案外話したら見た目通りふつうの人だった」「太田くんって意外に話しやすいんだね」という大変不本意な感想が聞かれるのだ。そこは見た目通りだからどんどん話しかけてもらってもいいのに!

でもこの二人はあの有名人な風紀委員長に絡まれている俺に対して普通に接してくれるから、その分感謝しているし、ほんとに俺のことを心配してくれていたりする。そこの点に関しては感謝してる。

そんなことを考えているうちに二人は俺のここが可愛いここが受けっぽいだの訳の分からない会話を始めたので、そろそろ黙らせようと思う。

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委員長がご乱心なのですが @mochikov

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