第5話 続!委員長、身に覚えのない嫌疑にかけられています

颯爽と現れたのはもちろん我らが委員長、佐藤委員長である。


「やっぱり委員長ですか」

「いつき、いきなり誰かに呼びだされたと聞いて俺はいてもたってもいられなかったんだぞ」

「そうですか」

「ああ、その対応。やはり俺の助けを待ち望んでいたんだな!もっと喜んでいいんだぞ」

「いつもなら全力で否定しますが、今はそれを否定しきれないことが悔しいですね」

「素直になれないいつきも可愛いぞ」


だめだマジでこの人話通じないな。この双子と一緒、だ…あれ、双子が時間が止まったように動かないんだけど。

キラキラ委員長が現れたことに気を取られて一瞬忘れてたけど、そうそう、俺はこの人たちに呼び出されたんですよね。そのキラキラ委員長の血が入っていると予想される双子に。

二人に目をやるとそこだけ時間を切り取られたかのように固まっていた。



僕の視線に気づいた委員長が声を上げた。



「おお、紅太郎に桃子じゃないか」

「「…はっ!お、お兄様!!」」


うっわ、びっくりした。急に大声出さないでくれるかな。

やっぱりこの人たち佐藤の姓がついた立派な兄妹関係だよ。嫌な予感が当たってしまった。

見目麗しい双子はお兄様の声を聴いた途端に意識を取り戻したかのように頬を染めて兄に向き直った。

こうしてみるとやっぱり容姿は申し分なく可愛いし、年相応なんだけどなあ。

如何せん、中身が兄の血を引いているため残念としか言いようがない。



「なんだお前たち、こんなところに。…ま、まさかっ!」


委員長は大げさとも取れるリアクションで俺の方へ向き直る。やや距離が近くて、しかも肩を抱いているのは今はスルーしておこう。きっと俺の肩にカメムシでも止まってるのをそっと手で払ってくれたんだろう。うん、きっとそうだ。きっと下心とかそういうのではないと思うんだ。

そうですか、とうとう気づいてしまいましたか。双子の姉弟もバレた、というような気まずい顔をしている。先程この双子には散々平凡だの悪口を言われたのだが、ここはあくまでも波風立てないように、そう、俺が大人の対応をするだけ。この場を収めるには俺がなんにもなかったと説明するしかあるまい。


「委員長、僕はその、「俺のいつきに、惚れてしまった、だと…?」…はあ?」


委員長の発言に俺、双子は絶句していた。いやいやいや、ねぇから。思わず暴言を委員長に吐いてしまうところだった。馬鹿なんじゃないの、と。おっと本音が…


「あの、委員長、なにを…?」

「お、お兄様…待ってください」

「俺たちは、その平…太田先輩とお話してみたいなあって」

オイ弟よ、今平凡と言いかけたでしょ。そういうとこ気にするから意外と。この双子かなり変だと思ったけどやっぱりうちの委員長の方が変人だった。

「いつき、本当にそれだけなのか…?いや、きっと違う。いつきは魅力的だから二人は恋に落ちてしまったんだ…そ、そう、まるでこの俺のように」

「そういうの、いいですから。あのですね、正直に言いますと…僕はこの二人に呼び出されて、『祐介お兄様をたぶらかすな』って言われただけで」

「…え?」

「…ですから、ただ呼び出されただけで、」

「え???」

…何回言わせるんだこの人。しかもなんか期待するような、どこかキラキラした目で俺を見てくるんだけど。これ、なんか見たことあるなこの顔。かなりイケメンで女の子ならコロッと落ちてしまうんだろうけど。何回も言葉を促されていらついてる俺には効きやしない。

「…だから、2人に呼び出されただけで」

「そして、なんて言われたんだ、いつき」

「…はあ?だから、祐介お兄様を…」

「も、もういっかい!!」

「…」


いくら絶世のイケメン貴公子であろうと、この反応は引きます、委員長。鼻息荒く迫られたら引きますって。

その兄の様子をみて双子二人も絶句したようだった。おそらくこんな風になる兄を見たことがないのだろう。残念、俺は何回か見たことがあるんです。


「さあ!いつき、遠慮はいらん!俺の胸に飛び込んで名前を呼んでごらん」

「…全力で遠慮します委員長」

「そこは祐介お兄様じゃないのか、いつき。いつきも冗談が好きだな」

「冗談はあなたでしょう」


そんな俺たちの様子をみて次第に双子が俯きながら震え始めた。うわ、大丈夫かな。

様子から伺うに、彼らはキラキラ王子なクールな兄しか知らないのだろう。きっとショックを受けてるんだ、同情を禁じえない。


「な、なんてことなの…ねえ、紅」

「ああ、桃子…」

「お兄様!!!おめでとうございます!!」

「兄様!おめでとうございます!!」


「…は?」


二人は涙ぐんで互いに手を握り合い、俺たちに熱のこもった視線を向けてきたのだ。

あの…一般人にも分かるように説明していただけませんか。状況が全く読めない。


「やっと兄様にも嫁と呼べる存在ができたのですね」

「先ほどからお兄様と太田様は恋人同士といえる会話をされていますものね」

「お前たち…」


いやいやいや、なんつー勘違い姉弟だよこいつら!

なんでちょっと恍惚とした表情でこっち見てるの?馬鹿なんじゃないの?おっと本音が…


「ありがとう。お前たちを誤解してすまなかったな。そうだ、俺といつきの愛は本物だから…大事な弟と妹である紅太郎と桃子に認めてもらって本当に嬉しい」

「「祐介兄様…」」


ひっしと背景に擬音がつきそうなほど彼らは硬く抱き合い目頭を熱くしていた。

いや、もう身に覚えなさすぎてよくわからないんですけど。

ともかく、三人がどこか感傷に浸っているこの隙に立ち去るしか道はあるまい。

何もかも考えることが嫌になって、俺はその足で「なんとなく、しんどいので」という不定愁訴丸出しの通用するか怪しい理由を担任に告げ、そのままさっさと早退したのだった。

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