第6話 委員長、幼馴染の後輩がジョブチェンジしたようです

「いつき君、お疲れさまっ」

「ああ、湊君。おつかれさま」

「ねえねえ、この後一緒に帰ろ?」

「うん、もちろん。帰ろう」

「やった!うれしい!」


そう言って小型犬を思わせるようににこにこと笑う瀬戸内湊くんは中学三年の後輩。

中等部の風紀委員会に所属している。

今日は年に3回開催されている中等部、高等部の合同会議である。まあ俺は平風紀委員だから特にすることもないんだけれど。合同会議といっても中等部と高等部が交流することを目的としたものだ。

湊君は家が隣ということもあって、小さいころからよく一緒に遊んだりしていたのだ。

幼いころは女の子かと思うくらいに可愛かったのだが、今やぐんぐん伸びたその身長は俺と並ぶまでになり、追い越す勢いである。まだ成長途中ではあるものの、あと2年したら超絶イケメンになるだろうな。今は少し危険な香りのする美少年って感じだ。…俺は幼馴染の後輩をなんて目でみてるんだと突っ込みたくなる。まあ、ようするに平凡な俺の横にいるのが不思議なくらいにイケメンだってこと。

昔から俺によく懐いてくれて、風紀委員に所属したのも俺が所属しているから、らしい。しかも中学3年に進級したら中等部の風紀委員長になっていたのだから驚きである。すごいなほんと。まあ高等部の風紀委員長と並ぶくらいのオーラはあるなと思うけど。


「じゃあ、今から帰ろうか」

「いつき!一緒に帰ろう」


委員会の片づけを終えた佐藤委員長が俺の肩を抱きながら耳元で囁く。そういう不意打ちドキッとするからやめてくれませんか。

久々に湊君と帰るからここは断らせていただこう。てか、委員長と帰る約束してないし。


「いや、僕は「佐藤委員長、申し訳ありませんがいつきくんは僕と帰るので」

俺の言葉を待たずしてきっぱりと湊君は言い切った。しかもスマートに佐藤委員長から俺を引き離したのだ。湊君、男前じゃあないか。


「はあ?いつき、くん?失礼だが瀬戸内くん、いつきは俺との先約があってだな」

「いや、先約なんてありませんが」

「なんだと?!いつき!俺とのときめき放課後クレープ食べさせ合いっこデートはどうなるんだ」

「いや、なんですかそのキャッチコピーみたいな言葉。当たり前の慣用句みたいに言わないでください、初耳なんですけど」

「話は以上ですか、佐藤委員長。いつきくん、帰ろ?」


佐藤委員長に対しての湊君の塩対応がとどまるところを知らない。委員長と俺への対応がかなり違うことにただただ驚きである。まあさっきの会議でも俺のみたことのないよそ行きの湊君だったんだけども。

俺に対しては幼いころからお兄ちゃん的な印象が抜けないのかもしれない。


「瀬戸内くん、いつきとはどういう関係なんだ?やけに親しそうだが」

「いつきくんと僕は親愛を超えたものでつながっているので。兄弟以上、もはや恋人同然に仲がいいんですよ、ね?いつきくん」

「え?しんあい?」


え、えーっと…ちょっと待ってくれ。湊君は俺の反応に驚いているようだった。いやいや、こっちも初耳だからね。今日は今まで知らなかった新事実を発見できる日なのか。ちっとも感動を覚えないんですけど。


「恋人同然って…湊君、そういうことは彼女とかにいうものでは…僕に対しては絶対違うよ」

「いつきくん、何今更言ってるの?彼女なんて邪魔なものはいらないから。いつきくんがいれば僕はなにもいらないから、安心して、ね?」

「えええ?邪魔って…ちょっと理解が追い付かない」

「はっはっは!瀬戸内くん…いや、瀬戸内湊、お前はいつきのことをなんら分かっていないな。いつきの恋人は将来俺だと決まっているんだ。いつきは照れ屋で優しいから、後輩の君を傷つけまいとはっきり言わないだけなんだ」

「いやそれも超理論ですけどね。あなたこそ僕のこと全然わかってないし」

「佐藤委員長黙って。ね、いつきくん、一緒に帰ろ?」

「瀬戸内湊!いい加減にしろ。そうやって俺のいつきにくっつくな!」


俺をそっちのけで二人は言い争いを始めてしまったのだ。あれだけわんこのように可愛く、真っ直ぐな美少女並みに可愛い湊君がなぜか変人佐藤委員長と同類に見えてしまうのはどうしてだろうか。

いや、そんなはずはない。今まで俺の相談とか俺の部屋に泊まりにきてくれたではないか。

一人っ子で寂しいから一緒に寝てほしい、お兄ちゃんがずっと欲しかったと言ってしょっちゅう俺の部屋に来てベッドにもぐりこんできたではないか。やたら寝起きは俺に抱き着いて寝ぼけて俺の服の中に手を入れてたではないか。懐いてくれて兄のように慕ってくれるので可愛い可愛い弟ができて嬉しいと言ったら抱き着いて「いつきくんだーいすき!」と満面の笑顔で言ってたではないか。彼はいつから変人にジョブチェンジしたんだ?…まったく分からない…

とりあえず今日は俺もキャパオーバーである。


「…その、今日は1人で…帰ります」


言い争う二人を置いて、俺は帰路についたのであった。

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