第2話 委員長、いい加減学習してください
「では、本日の委員会は終了だ」
ありがとうございました、という全員の委員長に向けての礼が終わり、僕も帰路につこうと帰り支度を始めると、委員長がツカツカとこちらへやってきた。
それを見た委員会のメンバーは関わらまいと足早に去っていく。
なんて冷たいんだ君たちは。
「いつき、一緒に帰ろう」
「…嫌です」
「なぜだ!」
かなり近い距離で佐藤委員長は絶望的な顔をする。
委員長はパーソナルスペースが著しく狭いらしい。食い掛かるように俺に近づいてくる。
まあ、こういう時は…
「委員長、そんな悲しそうな顔をすると、綺麗な顔が台無しですよ?」
「…っ!!!」
このような台詞と、首を傾げるだけで委員長は後ずさる。
なぜこれが効くのかは分からないが、クラスの友人に相談したところ、これを教わったのだ。
最初は半信半疑で試したのだが、意外にも功を奏しているのでありがたく使わせてもらっている。
「…い、いつき、それは反則だ…」
「…はぁ…」
いつも同じ手に引っかかる委員長が不安で仕方がない。
僕は委員長の変人具合にある程度は慣れてしまった。不本意ではあるけれど。
だが委員長ときたら、この僕のさっきの攻撃には全く慣れないらしい。
「かわいすぎるんだ…っ!」
「…」
思いつめた表情で何を言うかと思えば、そんなことですか。
ため息をついて周りを見渡すと、数人しか残っていなかった。
さて、帰ろうかなと振り返って扉に向かって歩いた瞬間、急に後ろに引かれた。
「…いつき、一緒に、帰ろう?」
「…嫌です」
「なぜだ!」
また絶望的な顔をするものだから、僕の真意を伝えなければ納得しないことを悟った。
「あの、それはですね」
「俺が…嫌いなのか?」
「…いや、そういうわけでは」
「今の間はなんだ!やっぱりそうなのか!」
そうなんだ…と勝手に自己完結をして綺麗な瞳を潤ませる委員長。
ちょっと…仮にも僕より年上なのに泣かないでください…
というか、生徒の間でクールな王子様の風紀委員長で通ってるんでしょあなたは。
委員長は僕のひきつった顔を見て余計に泣きそうになるのが分かった。
ああ、もう。違うんです、そうじゃなくて。
「そうじゃなくて、委員長はかっこいいから…その、僕なんかといたら生徒の評判が下がります…」
まあ、学校中にきっと委員長が後輩に構っているという噂は、大変不本意だが多少広まってはいるだろう。
そのお気に入りがかなりの平凡で地味な男という噂も、その本人である僕の耳に入ってきているのだ。
まあ、その噂の対象が僕であると聞いても誰も信じないだろう。僕だって委員長が構う理由が全く分からないから。
そう、そんな平凡地味男が委員長と仲がいいだなんて、委員長に迷惑がかかる。
まあ、委員長のファンの人に睨まれても嫌というのも、理由の一つだけど。
さっきの言葉は僕の本心。
嫌いだなんて、思ったことはない。
そりゃあちょっと変わった人だし、所構わず僕に大声で話しかけるし、毎日のように僕に一緒に帰ろうというけれど…
笑顔で僕に話しかける委員長は嫌いにはなれない。
「…そんなこと誰が言うんだ!いつきは最高だ!」
「…ちょ…そういうこと言わないでください。さすがに照れます…」
「…照れるいつき、すごい可愛いぞ…!もっと照れてくれ!」
「……もう帰ります…」
真顔でそんなこと言われてはたまらない。
こっちは平平凡凡な一生徒であって、毎日その顔は見慣れているとはいえ、不意にそのキラキラした顔で真顔になられると…しかも僕を称賛するようなことを急に言われると、さすがに照れくさい。
照れる、と告げると途端に委員長の顔は花が咲いたように明るくなった。
それにより、さらにキラキラオーラがとめどなく溢れ出す。
これ以上そのオーラに当てられたら、僕もおかしくなってしまいそうで、僕はその部屋を無言で後にした。
…僕も委員長に対しての反応を学習すべきかもしれない、と思った。
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