第3話 委員長、昼食はよく噛んでお召し上がりください


「いつき、いつき!」

「…ご飯を口に含んだまましゃべらないでください」

「…ん、わかった」



満面の笑みで口の中のものを咀嚼する我が風紀委員長は、やはりいつも通り輝くほどの美形であった。

さすがに育ちのいい佐藤委員長は、俺がしれっと諭すとすぐに口をつぐんだ。

そういうところは、礼儀正しいんだよな…なぜ俺に対してTPOを弁えられないのか、甚だ疑問である。


しばらく咀嚼を繰り返し、ごくりとおいしそうなお重の中身を飲み込むと、俺に満面の笑みでこう言った。



「いつき、私の家の「丁重にお断りさせていただきます」なぜだ!!」


まだなにも言ってないのに!

そう嘆く委員長に俺はため息しかでなかった。



「わかりますよ…どうせ私の家の食事を食べに来ないか、とかそういう類いのことでしょう」


最近妙に委員長が家での食事のこととか、お弁当の中身だとかをやけに話題に出すのだ。また、よく昼食に無理矢理、誘われるようになった。

そのたびに、委員長ご自慢のお重のお弁当が披露されるのだ。


佐藤委員長とは違ってごくごく一般的な、母が作ってくれたお弁当をつつきつつ、俺は面倒だという感情を隠すつもりもなく、そんな言葉をはいた。


「…なっ…」


ところが、委員長は俺の言葉にわなわなと震え、その手からは箸が滑り落ちたのだ。

あれ、もしかして違った?としたら結構失礼なことを言ったかもしれないし、おれも自意識過剰みたいで恥ずかしいんだけど…


「その…間違ってたなら、ー」

「なんてことだ、こんな嬉しいことがあるだろうか…俺といつきはテレパシーで意思疏通していた、のか?!だとすると俺たちは両、思い?!」

「……………ごちそうさまでした。失礼します」



やはり俺の思考は間違ってなかった。一瞬でもしなくてもいい反省をしてしまったことを、後悔した。


「い、いつき!食事のあと、俺の部屋でお泊まりパジャマパーティー、な、なんてそんな大胆なことも、お、俺は大歓迎だからな!」


訳のわからないことを呟いて顔を真っ赤にしている委員長は無視して、俺は弁当箱を片付け、いそいそと呼び出された風紀委員室をあとにしたのだった。

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