第6蒼翠のターザン、都会にて

「あー、あちぃ……」


太陽がジリジリと照りつけ、蝉がうるさく鳴く。おまけに湿気でジメジメしてウザったい。ふと、田舎での涼やかな日々を思い出す。


あれから三年の月日が流れ、俺は高校を卒業し、大学生へとなった。今は都内のアパートに一人暮らししている。


カルルはあの後、祖父母が面倒を見てくれることになった。高齢となった二人には元気な女の子がいてくれるのは嬉しいというのもあるが、一番の問題として、カルルをあのまま都会に連れていくのは無理があったのだ。


いやはや、当時家に連れていったときは『少女誘拐事件』として家族に騒がれそうになったが、今では懐かしい思い出だ。


そんなことより、とにかく涼もう。部屋でダラダラしよう。やってられんわこんな暑さ。


「……ん?」


俺がアパートの二階へと上がり自分の部屋へと向かうと、そこに見知らぬ女性が立っていた。


白色のワンピースに、褐色の肌。頭に大きな麦わら帽子を被っているため顔が見えない。


彼女はこちらに気付くと、トタトタと駆けてきて。


「ダガシー!」


「おわっと!?」


いきなり飛び付いてきた。突然のことに俺はそのまま押し倒され背中を強打する。衝撃で彼女の麦わら帽子が外れ、その顔を見て驚愕する。


「……カルル!?なんでここに!?」


そこにいたのは祖父母の家にいるはずの少女だった。野生児として過ごしていた昔の面影を残しつつも、実に綺麗になっていた俺は一瞬見とれてしまった。


なんとか立ち上がると彼女は小さなポーチから白い15センチの封筒を取り出した。


「爺じ、これ、ダガシ、渡せ言われた」


「爺ちゃんから?」


若干の発音の違いはあるものの日本語を話せていることに感心しつつ、俺は爺ちゃんの手紙に目を通す。


……なるほどね。人として過ごすには今のご時世、田舎より都会のほうが好都合だから俺に預けるって訳か。


最後の文には『拾ったからには責任を持て。誇りを持て』と祖父らしい言葉が綴られていた。


「ダガシ!カルル、ダガシ、また会えて、嬉しい!これから、よろしく!」


「……ああ、こちらこそよろしく。だけど俺の名前は孝な」



抱き付いてくる彼女に苦笑しつつ、俺は彼女の頭を優しく撫でる。



どうやら俺の夏休みは、都会でも普通には過ごせないらしい。


《了》

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蒼翠のターザン、田舎にて 《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ @aksara

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