最終話 秋山、座っとけ
~ 七月十四日(金) 終業式・ホームルーム 十五センチ ~
ハイビスカスの花言葉 新しい恋
一学期最終日くらいは、ということだろうか。
指定の位置ぴったりに腰かけるのは、通信簿を見て満足そうにうなずく
それ、クラス内の順位じゃないからね?
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日はゆったり三つ編みにして肩から前に降ろし、耳の上に真っ赤なハイビスカスを一輪挿している。
朝から、今日は普通だねとみんなに声をかけられてるけど、普通じゃない。
ハイビスカスが映える淡い桜色の浴衣。
自分で着付けたとは思えないほどに美しいことは認めよう。
でもね。
「おい秋山。制服はどうした」
「今日はなんとなく平等に扱って欲しい気分です、先生」
そして、穂咲が直していた浴衣は俺が着ている。
朝から我が家に押し掛けてきたおばさんの手にかかり、こうして俺まで着付けされて送り出された。
ここまでされたら恥ずかしいとすら思わない。
もうどうとでもしてくれ。
「まあいい。そういうことなら、二人して立っとけ」
先生の言葉に立ち上がろうとすると、穂咲に袖を引っ張られた。
そして穂咲だけが席を立つ。
なに? いつものお礼のつもり?
「道久君が立っちゃうと、あれが出来ないの」
「あれ? ……ああ、ずっと言ってた、やりたかったこと?」
なんだろ。
そんな悩む俺に差し出される白い手の平。
…………ほんと、なに?
「道久君、券を一枚下さいなの」
ケン? ……ああ、肩たたき券か。
筆箱に突っ込んだままにしてあった肩たたき券を出して一枚破いて穂咲に渡すと、ニコニコしながら俺の肩をぽんぽん叩き始めた。
……そっか。
やりたかったこと、俺がこれを着ていないとできなかったのか。
おじさんの浴衣の肩を叩きたかったんだね。
「何の真似だ、藍川」
「これ、ずっと夢だったの」
「ホームルームが終わってからにしろ。邪魔だから席につけ」
ねえ、先生もめちゃくちゃ譲歩してくれてるじゃない。
ふるふる首を振って嫌そうな顔しなさんな。
「はあ……。面倒だな。秋山、なんとかしろ」
「……それなら、反省できるまで正座しときます」
先生はちょっと難しい顔をした後、鼻から大きなため息をついて、手で追い払うような仕草をしてくれた。
それを了承と受け取った俺は、穂咲を席につかせた後、その横に正座した。
「これなら叩けるの。どこか、こってるところはございますか?」
たんとんたんとん。
「こってる? そうね、こんな解決策も出てこない先生の頭なら凝り固まってる」
たんとんたんとん。
「……秋山。やっぱりお前だけ廊下に立っとけ」
では皆様、また二学期にお会いしましょう!
……
…………
………………
「……そうだ。道久君、十八日からなの」
「何が?」
なんか約束してたっけ?
「あたし、アルバイトするの。だから、ちゃんと道久君も来るの」
「……何が?」
「あたし一人じゃ怖いから、道久君の分も申し込んでおいたの」
「なにがーーーーーっ!!!!」
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