最終話 有我祷

 ㅤめちゃくちゃ眠い。めちゃくちゃ恋がしたい。めちゃくちゃお腹空いた。


 ㅤオレはどうやら、元の世界に帰ってきたらしい。意識が朦朧もうろうとする中で、頭をフラフラさせながら台所に行き、カップラーメンの麺だけバリボリ食べた。そして台所の床で、這いつくばるようにして寝た。


 ㅤ目覚めた朝は、自然の光に包まれて。やがてぼんやりと、こっちの世界での出来事を思い出す。勝手に涙がこぼれだす。


「お母さん……」


 ㅤオレ、ひとりぼっちだ。でも、本当にひとりかっていうと、きっと違う。ちょっと、思い出したんだ。幼いときの記憶。

 ㅤ足の裏と、足の裏を合わせても、くっつかないところがあること。それを土踏まずと呼ぶこと。

 ㅤ繋げてみても、離れている。離れているけど、繋がっている。


 ㅤそうして触れた感触を、忘れることはきっとない。


 ㅤオレ、何とかするよ。何とか、ね。こっちだってわからないことだらけの世界で、理解不能でも、きっと楽しんでやるんだ。だけどいつしか、今の気持ちを忘れるようだったら、迷わずまた、会いに行く。


 ㅤそこに、いるんでしょ?


 ㅤ布団の上で、あぐらをかいて。寝転がって、足の裏と裏を合わせる。綺麗な楕円を描いたら、そこに手のひらを突っ込んでやるんだ。そしたら、飛べる。


「今日はバイトがありませんわ」

「チケットもぎりも、たまには休みます」

「許さんぞ、絶対に許さんぞぉ」

「ベレー帽、似合ってますか」

「元気に来ました、シカバネです」

「魔法使いは、魔法を使うものだ!」

「おれたち天狗と河童だぜ?」

「わがはいは、魔王」


 ㅤみんな。


「ヅッチーノ!」


 ㅤへへ。久しぶり。でもないか。


「みんなありがとう。オレの名前、ありがとう」


 ㅤ土を踏みしめ、花は立つ。

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ふしぎの世界のヅッチーノ 浅倉 茉白 @asakura_mashiro

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