第13話 リスタート
ㅤ畳の上に、布団を敷いて。あぐらをかいて、寝転んだ。ついでに足の裏と裏を合わせると、土踏まずが綺麗な楕円を描いたから。左手の親指以外の四本を、穴の中へと突っ込んだ。
ㅤそしたら何も、起こらなかった。
「ダメダァ」
「ヅッチーノ」
ㅤ改めて、この世界はいったい何なんだ。一晩の夢にしては少々長い。何をしたらいいかわからない。案内してくれるやつも、いるけど、いなくなった。
ㅤこの世界から抜け出す方法は、大切な何かを教わること。だけど結局、それが何なのかよくわからないまま寝転んでしまった。
ㅤいっそ、このままでもいいか。腹が減るわけでも、眠たくなるわけでも、恋がしたくなるわけでもない。苦しゅうない。苦しゅうないんだ。
ㅤだけど、心のどこかで、その大切な何かを求めているような気もする。それが人間ってヤツなのか。どうなんだ、ヅッチーノ。
「ヅッチーノ」
ㅤなるほどねぇ。うむ、虚しくなってきた。独り言の繰り返しを重ねているだけじゃ。ひとまず、この世界での出来事を振り返ってみよう。
ㅤ姫はコンビニでバイト。ドラゴンは観覧車前でチケットもぎり。反乱軍は月に吠える。モブキャラクターは渋谷の背景。シカバネは元気。魔法使いはムキムキ。天狗と河童は実在した。月の人はヅッチーノが演じてくれた。
ㅤそういうことか。ようやく、わかってきたよ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。いや、たぶんとっくに気づいていた。だけど、そこを深く意識していなかっただけだ。
ㅤ基本的に、みんな理解不能。原点はやっぱりそこ。普通じゃない。普通じゃないけど、こんなに普通じゃない世界ならそれが普通だ。きっと、オレが一番浮いているくらいだ。
ㅤそしてみんな、楽しそうだった。カウンターの向こうで笑っている姫だけじゃない。半券をちぎる姿も夜空に叫ぶ姿もムキムキで魔法を放つ姿も。イキイキとしていた。強烈な個性はないモブキャラクターですら、悲壮感なかった。オレが勝手に切なく感じただけだ。
ㅤみんな、生きている。死んだものまで、生きていた。くだらなくたって、バカだって。そんなこと関係ないくらい、キラキラ輝いていた。
「その通りだ」
「お前は、誰だっ」
「わがはいは、魔王。これ以上、説明することはない」
「な、なんだと。最後まで、そんな感じかっ」
「おぬしを、元の世界へ、帰そう……」
「望むところだ。あ、ちょまっ、ヅッチーノ? ㅤヅッチーノォォォ」
「ヅッチーノっ」
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