第12話 ヅッチーノ

「最後に会うのは、ヅッチーノ」


 ㅤヅッチーノは確かに、そう言った。オレの頭の中には、ハテナマークが浮かんだ。


「これまで会ってきたヅッチーノは、ヅッチーノじゃないのか?」

「それもヅッチーノ。これもヅッチーノ」

「よくわからないよ。お前とはまだ、ちゃんと会話できている方だったのに」

「……ヅッチーノ」


 ㅤヅッチーノとの出会いは、唐突だった。穴を抜けたらそこにいて、オレのことを導いてくれた。この悪い夢みたいな世界のこと、わからないことは多いけど、一緒に旅した。

 ㅤ大切な何かを教われって言っていた。それが何なのか、教わっていないからまだオレはここにいるのか。


 ㅤヅッチーノ。今度は改めてお前から、何を教わればいい?ㅤ何か話をしてくれ。お前がどういう存在なのかとか。お母さんがどうとか。はっきり言ってくれないと、よくわからないぞ。


「ヅッチーノ」


 ㅤお前の名前は知っているよ。そうじゃなく、もっと核心をつく話をだな。


「ヅッチーノ」


 ㅤからかっているのか?ㅤだとしたら、いい加減にしてくれよ。これ以上オレを、理解不能にさせないでくれ。


「ヅッチーノ……」

「おい、何だそれ」

「ヅッチーノ」

「もしかして、それ以外しゃべれなくなったとか?」

「ヅッチーノっ」

「あはははは」


 ㅤ笑ってみた。そこに何の意味や、感情があるのか。これまでずっと一緒にいたヅッチーノとしゃべれなくなった。一応オレの声に対する反応はあるみたいだが、もう同じ言語を共有することはできないようだ。


 ㅤただただ、心細い。ますます何をしたらいいのか。この世界で監禁状態のオレが。


「ヅッチーノ」


 ㅤとりあえず、元いた部屋に帰ってみるか。全てはあそこから始まったんだ。もう一度、あそこから始めよう。

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