第11話 電話

 ㅤヅッチーノは、「月の人に会わせてあげるーノ」って言った。たぶん、反乱軍の人に会ったときの会話で、そんな話が出ていたから、用意してくれたんだろう。

 ㅤ特別会いたいと言った覚えもないし、おせっかいにも感じるけど、空を飛んで月まで行く感覚っていうのは、夢でもそう味わえないだろうから、楽しみ。

 ㅤなんて思って飛んでいたら、突然急降下。降りた先には、近頃あまり現実でも見なくなってきた電話ボックスがあった。


「これでお話するーノ」


 ㅤそういえば、月と電話がどうこうってオレ言っていたっけ。そこまで再現しなくていいのに。とりあえず、ここから電話をかければ、月の住人に繋がるっていうのか?


「かけてみるーノ」


 ㅤそうしてオレは、電話ボックスの中に入った。ひとりで入ったのか、ヅッチーノと一緒に入ったのかはよくわからないが、受話器を取ると、勝手にプルルルルと電話がかかる音がした。

 ㅤ次にガチャッと、相手が受話器を取ったような音がする。


「あのー、もしもし?」

 ㅤ返事がない。

「こちら、ありがとうっていいます。名前です。月のかたですか?」

 ㅤまだ返事がない。諦めて切ろうとしたら、

「はい」

 と、実にシンプルな返事。もしかしたら、こことは時差があって返事が遅れるのかもしれない。

「月では、どのような暮らしをしているのですか?」

 ㅤそんなに興味のないことを、いかにも興味ありげに聞いてみる。

「……はい?」

「あの、月では、どのような暮らしをしているのですか」

「……月の暮らしをしています」


 ㅤこれはダメだ。ある意味これまでの誰より会話に困る。月の人っていうのがどんな人なのか、想像つかないし、質問しても通じない。もう、適当に終わらせようかなと思っていたところ。


「あの、電話を切ってもいいですか」

 と、逆に言われた。これは辛い。悔しいから、何とか会話を続けようと試みる。

「すみません。こちらの星と月の暮らしの違いなどを聞きたいのですけど」

「……すみません。あまりよくわからないというか、ボロを出したくないというか……」

 ㅤボロ?ㅤボロって何だ。本当にもう、話にならないな。

「ごめんなさいーノ。じゃなくて、ごめんなさい……ノ」

 ㅤアレ?ㅤお前、もしかして。

「こんばんは、ヅッチーノだよ」

 ㅤ何だ、お前か。電話の相手は、最初からお前だったのか?

「プルルルルも、ガチャッも、そうなーノ」

 ㅤ何だよそれ。でも、語尾にノがついていないときが多かったぞ。この頃はずっとついていたじゃないか。

「頑張ったーノ。ただもう色々と、限界なーノ」

 ㅤ限界って? ㅤいったい何の話をしているんだ。

「ヅッチーノは、キミのお母さんじゃないーノ。だけどヅッチーノは、キミのお母さんなの」

 ㅤ何を言っているのかさっぱりだ。とにかく、月の人はいなかったんだな。ヅッチーノが相手をしてくれていたんだな。

 ㅤじゃあ次は、誰に会いに行ったらいいんだ。

「ヅッチーノ」

 ㅤだから誰に会うって?

「ヅッチーノ」

「お前に会うって?ㅤもうここに来てからずっと会っているじゃないか」

「そうじゃないーノ。もうすぐ、終わりなーノ」


 ㅤ星と月が輝く夜空。反乱軍の人は、今日も元気に叫んでいるのかな。

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