第10話 戦うーノ

 ㅤ結論から言うと、魔法使いは白いタンクトップを着こなすムキムキマッチョメンだった。その魔法使いいわく。


「魔法使いが魔法に頼るのは甘えではないか。そんなのは魔法使いではなく、当たり前使いではないか。ならば、筋肉という私が持っていない魔法を身につけ、戦うことができれば、それは一周して魔法使い……」


ㅤなどと言いながら、火や氷による魔法攻撃を放ってくるマッチョメン。オレは全力で逃げた。何でこんなことになっているのかと思いながら。

 ㅤコロシアムに入ったときにはすでに、魔法使いは場の中心に待ち構えていて、前述の口上の直後、攻撃してきた。

 ㅤだからオレはとりあえず、わけもわからず逃げるしかない。


「おい、ヅッチーノ!ㅤコイツ何なんだよ!ㅤ怖いよ!」

「頑張るーノ!」

「もう一回飛ばしてくれよっ」

「頑張るーノ!」


 ㅤここで攻撃を食らったら、オレはどうなるんだ?ㅤ夢の中だとしても平気だとは思えない迫力があるぞ。

 ㅤしかし走り続けるのは疲れる。止まらずに動き回れているだけ、まだマシなんだろうけど、このままじゃラチがあかない。何か打開策を考えないと。


 ㅤそうだ。魔法使いはさっきから火の攻撃と氷の攻撃を交互に放ってきている。火と氷っていうのは、互いに弱点の関係でもありそうだ。これを利用するしかない。


「しまった。壁際に追い詰められた。ここで魔法を使われたらオレはもうダメだ!」

「ふふ。ならばここで、魔法を使ってやろう」

「今だっ!」

 ㅤオレは魔法使いが放つ氷の魔法を、全力のでんぐり返しでけ、壁に氷がぶつかった。そして魔法使いの元へ、氷の魔法が跳ね返る!

「何だとっ。それなら火の魔法で相殺そうさいするっ」

 ㅤこれがオレの、作戦だった。

 ㅤ火の魔法と氷の魔法がぶつかったこのとき、相反あいはんする力が凄まじい光を生み出す。魔法使いはきっとこの衝撃で吹っ飛び、戦闘不能になるだろう。そう思っていた。


「ふふふ。これが、本当の魔法」

 ㅤ吹っ飛ぶには吹っ飛んだようだが、すぐに立ち上がった。ビリビリに破れたタンクトップからのぞく、たくましい胸筋、腹筋。魔法使いはもう、魔法が生み出す力など意に介さないレベルのムキムキマッチョメンになっていた。


「もう、同じ手は通じない」

 ㅤくそっ。これでもう、終わりなのか。

「なぜ、同じ手は通じないのか?」

 ㅤ知らないよ。ああ、どうにでもしてくれ。

「それは私が、直接叩きに行くからだ!」

 ㅤ反射的に、目を伏せた。もうダメだって思った。これまでの、この世界での思い出が、走馬灯のように蘇る。


『姫がコンビニで働いているという、だけのことですわ』

『半券をちぎるときの、ピリピリという音がたまりませんよね』

『許さんぞ!ㅤ絶対に許……ゴホッゴホッ!』

『はい、週に一度は来ます』

『元気だけが、取り柄でございます』


 ㅤ何だよコレ……。ろくでもない思い出ばかりじゃないか。


『ヅッチーノはね、キミのお母さん』


 ㅤだからぁ、ふざけるなって……。


「ウチのありがとうに、手ェ出すんじゃないーノォォォ」

 ㅤ目を上げたときにはもう、ムキムキマッチョの魔法使いは星の彼方かなたに消えていた。それと同時に、観客席から拍手が聴こえた。


「ブラボー、ブラボー」

 ㅤそこには天狗と河童がいた。だからどうしたという感じだった。

 ㅤそんなことより、ヅッチーノ。お前、何したんだ。

「何もしてないーノ。ちょっと、デコピンしただけーノ」

 ㅤうわあ。何か凄いな……。

「でも、とうと一緒に戦えて楽しかったーノ」

 ㅤこれは一緒に戦ったって言えるのか?ㅤまあいいか。相変わらず理解不能な世界だけど、今は変な爽快感にあふれているよ。

「魔法を跳ね返してぶつける発想は見事だったーノ。次は、ありがとうのリクエストで急遽用意した人に会おうーノ」

 ㅤリクエスト?ㅤそんなことした覚えないけど、まぁ楽しみにしてみるか。

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