ご挨拶ねぇ。

「いらっしゃい。」


 外向きに開かれる玄関のドア。


 出迎えた人物を見た瞬間、真一君が不機嫌になります。


「…何で桔葉?」


「いきなり、ご挨拶ねぇ」


「葉月ねーちゃんは?」


 姉の居場所を確認された桔葉さんは、秘事を明かすかの様に呟きました。


「ある男性に、会いに出かけてる。。。」


「…」


「気になる?」


「お気にの店員さんを…ドラッグ島津に見に行っただけでしょ」


「─」


「道野さん だっけ? 葉月ねーちゃん、迷惑かけてないと良いけど…」


 桔葉さんは、自分が望む反応が返って来なかった事に、舌打ちします。


「何で…知ってるのよ!」


「デートの途中に、何回か 連れて行かれたからね」


「…」


「僕に…ヤキモチでも、やかせようと思った訳?」


「─ そうだけど?」


「相変わらず、性格悪いな。キキチは」


 不本意な仇名で呼ばれ、桔葉さんはムッとしました。


「キキチって、呼・ぶ・な!」


「だったら、年上の僕を、シンちゃんって、呼・ぶ・な!!」


「…葉月ちゃんだって、年下だよね?」


「─」


「なんで 葉月ちゃんが、シンちゃんって呼ぶのは、良い訳?」


「そんなの…葉月ねーちゃん だからに、決まってるだろ♡」


「…バカップル。」


----------


「で…何で葉月ねーちゃん、僕の手助けが必要な程 クッキーを手作りする訳?」


 居間に通された真一君。


 ソファーに腰を下ろして直ぐ、正面に座った桔葉さんに尋ねました。


「ホワイトデーに…必要だから。」


「話が…見えないんだけど」


「不本意ながら…バレンタインに、大量にチョコを貰っちゃってねぇ」


「…」


「経済的な理由から…お返しのクッキーを、手作りする事にしたの」


 真一君の胸で、ノイズな感情が芽を出します。


「確認するけど…チョコを大量に貰ったのは、誰?」


「わ・た・し」


「なのに…何で葉月ねーちゃんが、お返しを手作りする訳?」


 強い言葉を投げかけられ、桔葉さんは俯きました。


「ど、努力はしたのよ…私だって。」


 いきなり、立ち上がります。


「─ 料理を振る舞って済むなら、そうしてるから!」


 口を挟む暇を与えず、畳み掛けました。


「何故か お菓子作りは…料理とは、勝手が違うのよ!!」


----------


「一応、言っとくけど…」


 クールダウンした桔葉さん。


 再びソファーに腰を降ろしました。


「葉月ちゃんは クッキー作りの件、借りを返すって事で 乗り気なんだからね?」


 真一君が、訝しむ視線を返します。


「借りって…何?」


「お揃いマフラーのデートが…バレンタインから1週間遅れただけで、実現した件。」


「う…」


「余裕がない葉月ちゃんに代わって、そのパートナーに マフラーの編み方を、懇切丁寧に 解り易く教えた人は、だ・れ・で・しょう?」


「・・・」


「誰かさんが上手く編めなかったマフラー、何とかリカバしてあげた実績もあるし。。。」


 口をパクパクさせるだけで、何も言えなくなった真一君。


 桔葉さんが、意味ありげに微笑みます。


「そう言う事情を踏まえた上で…まさか、葉月ちゃんを手伝わない選択をするなんて事、しないわよね? し・ん・い・ち・さん♪」

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真一君のバレンタイン 紀之介 @otnknsk

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