宿木美術館に展示された美術品には魂が宿っている。この美術館で働く条件は、"見える人"であること。作品に宿った魂と対話できる特殊な才能を持った学芸員・本郷司が、毎回、美術品の魂たちに振り回されるドタバタ騒動が愉快でした。
いつも本郷をからかう美女の『モナ・リサ』、大声で騒がしい『ムンタの叫び』、頑固者の『学者の肖像』など、美術品にはそれぞれ個性的な魂が宿っている。美術館を逃げ出してしまった魂を探し回ったり、ボイコットをするレプリカたちを説得したりと、彼らのために本郷は奔走する。
毎日のように事件や厄介事を巻き起こす彼らだが、気分次第でファッションを楽しんだり、気に入った人間に寄り添ったりと、人間味があって枠にはまらない自由奔放さが、いかにも芸術作品らしい。
私たちが美術鑑賞をしている際にも見えないだけで、実は美術品たちもお客を品評しているのかもしれない。美術館巡りが楽しくなる作品です。
(「ミュージアムへ行こう」4選/文=愛咲優詩)
あまりにも面白くて、上手いおススメレビューがずっと書けず、
むしろ読んで、面白いから! しか言えない自分が悔しかったのですが、意を決してレビューします。
この作品の魅力を語るとたぶん一晩でも二晩でも語れてしまうミュージアムフリークであり、ミュージアム小説も書いている私から見ても『魂宿る美術館』は本当に面白い!
それぞれ短編で構成されていて、主要な美術品は実在の作品をモチーフにしていますが、そのキャラクターの料理方法が秀逸で毎回笑ったり、こうきたか! と楽しませていただいています。
もちろん、知らなくても楽しめると思うのですが、大体教科書に載っている作品が主なので、誰もが一度くらい聞いたことのある作品ばかりかと思います。
どーしてこの美術品からこのキャラクターが出来上がったのか、毎度作者の想像力とサービス精神に本当に拍手を送りたい。
きっとあなたもお気に入りの美術品と出会えるはず!
ちなみに私の一押し美術品は「8-1 レプリカが物申すそうです」に登場する「定宣」です。レプリカと複製の違いなどもさりげなく描かれているのがニクイですね。
一時期なにかと話題になった美術館の学芸員が主人公です。学芸員とは、デリケートな美術品を正しく保管して、後世に伝えていくお仕事になります。
ですが本作の学芸員は普通とは違って不思議な力が使えます。美術品の言葉を聞き取れるのです。
年季の入った美術品たちですから、性格やこだわりにも一癖あり、主人公は振り回されっぱなしになります。ですが学芸員側の仲間たちも一癖二癖とある頼りがいのある人々なので、ある意味では学芸員と美術品の綱引きなのかもしれませんね。
話の進め方ですが、短編連作方式となっていまして、それぞれの美術品にはモデルがあります。ゴッホのひまわりや、ムンクの叫びですね。あれらがアレンジされて、人の言葉を操りながら主人公を困らせます。時々美術館から脱走して、学芸員と鬼ごっこを楽しむわけです。想像していたより大変ですねぇ、学芸員のお仕事って。
どうですかみなさん、この物語を読んで学芸員のお仕事に興味を持ってみるというのは。もしかしたら美術館に足を運びたくなるかもしれませんよ。現実世界の美術品も動き出すんじゃないかってね。