偽りの恋人_1
町は高い
うとうとしているとホテルのような場所に
「シュテルーン様、我らが領主様──そしてお連れ様を、この
「世辞はいい」
ルイスは低く
ううん、タツノオトシゴ(仮)に乗っていた時からルイスの機嫌が悪いのはわかっていた。
あの車の中で、ルイスと私はいくつかの実験をしたのだ。
その結果、ルイスは私に
触れていれば、その間、私の中にある源から
ルイスが生きる上でかなり不便な状態みたいで、実験を終えた後から目つきが
「すみません、ルイス眠いみたいだから、早く部屋に案内してください」
「おい、押すな!」
「イライラしないで」
私だってしばらく異世界にいなくちゃいけないことで落ち込んでいるのだから。まごついているおじさんを促して、私たちは部屋へ案内してもらった。入った部屋は大きかったけれど、キングサイズのベッドが一つしかない。
「……私の部屋はどこ?」
「ここだ。おまえから目を
ルイスは平然として言った。
「おまえが俺の力を
それにしたって、よく知らない男の人と同じ部屋で
でもルイスの大事なものを持っているのは確かだし、ここは私が大人になるべきなんだろう。
「わかった……ルイスがベッドを使うといいよ。お姉ちゃんはソファで大丈夫だからね」
「貴様のような姉を持った覚えはない」
ルイスの
眠りながら頭の
「う、うう……息、が」
いや、顎肉はどかせられないか──。
「っ……何?」
「何が目的でルイス様のお部屋に
顎肉がしゃべった、と思った
「ぐはっ、ルイス、様!?」
顎肉が
「これはどういうことだ、ヨアヒム!」
「ルイス様のお部屋に忍び入る
「殺そうとしたのか……」
ルイスの苦々しい声が聞こえたかと思うと、暗い部屋がフワッと明るくなる。ルイスがランプを掲げて私を見た。
「おい、死ぬなよ! 呼吸はできるか?」
呼吸なら、
ルイスにバシバシと
「ヨアヒム、余計なことをしてくれたな」
ヨアヒムと呼ばれた男は、私の上から
「人間なんぞ同じ空間で呼吸をすることすらご不快だとおっしゃっていたではありませんか!」
「呼吸しないと死んじゃう……」
びっくりして
「死ぬな!! おまえに死なれたら俺は……!」
力を失ってしまうか、悪ければ死んでしまう、のだと思う。
けれどそれを知られないようにだろう、ルイスは言葉を
「……こちらに来い、エミ」
首を絞められていたとはっきり理解すると
いや、熱くなったのは、私の身体の中にある何かだ。この熱が私の中にあるルイスの力なのだろう。触れているところから、その熱は元あったところにじわりじわりと
「まさか……ルイス様、その人間の女は」
青い髪の男が、何かに気づいたかのように息を吞んだ。
私が触れていないと、力を発揮できなくなっている。ルイスはそのことを絶対に
「その人間の女と、ルイス様……まさか
「…………ふぁ?」
ルイスを見上げたら、
「そんなわけが……ッ!」
「それでは
ルイスは
とはいえ、そんなに強い力を込めて握らなくてもいいよね!?
「い、痛いよルイス」
「痛い?」
ルイスは意味がわからない、という顔をして私を見下ろした。なんで伝わらないの、本当に痛いんだよ。
「確かに人間はすぐ
ただ
私たちのやり取りを見て、青い髪の男は誤解をますます深めたらしい。
「このヨアヒム、
「
「何が誤解なのですか? もしやその女を抱いているのには深い事情がおありとか──?」
ルイスが言葉を切り絶句した。
その通り、事情があるんだと説明しないっていうことは、やっぱり……この青い髪の男の人も、犯人の可能性があるってことなんだ。
つい先ほどまで味わっていた息苦しさを思い出して、改めてゾッとした。
私はただ巻き込まれただけだから、元の世界に帰っちゃえば日常に戻るけれど、ルイスは本当に誰かに命を
「……俺とこの女は、確かに恋仲だ!」
ルイスはやけくそ気味に言った。
秘密にしたい事情に理解を示しかけた青い髪の人を前に、ルイスは
「
「す、好いてしまったものは仕方がなかろう!」
「この世のすべての竜族の娘が
「
叫びながら、ルイスはくっと喉を鳴らして赤い
ルイスと青い髪の男の不毛な言い争いを聞きながら、私はルイスに寄りかかって目を閉じた。
なんだかもう、今日はすごく
「おい、起きろ……起きろエミ!」
名前を呼ばれたけれど、
昨日、泣いたっけ? そんな覚えはないのに、瞼が
「……ルイス?」
「今医者を呼んでいるところだ。
なんとか瞼を開くと、私が横になっているベッドの
身体がだるくて、起き上がれない。
「……私、
「ああ、そのようだな。……なぜそんなものをひいた」
ルイスが責める口調で言った。大きな声を出さないで欲しい。頭がガンガンと痛む。
「うう……」
「おい、やめろ。おまえが死んで──失ったら! 俺は一体どうしたらいい!?」
ルイスが恋人を心配する彼氏にしか見えないせいで、ヨアヒムさんが
「
あと、水に
「一体何が問題だ?」
「人間はすぐに死ぬ生き物です。食事を一回抜くだけでも死に大きく近づくそうです」
それはいくらなんでも大げさだ。
「お、おい……医者はまだか!? ヨアヒム、俺に何かできることはないか!」
「暖かくさせておくこと……でしょうか。以前、買った人間を家の中に一晩置いておいたところ、
「おまえ……凍死するのか……?」
その家はどれほど寒いんだろうか。
びっくり顔をしているルイスに私はびっくりしたい。冷蔵庫の中にでも入れられなければ凍死はしないと思うよ、たぶん。
ルイスは着ていた上着を
「ありがとう。もしよければ、あの、水を……」
喉が
「水? これは
「水は人間にとって重要なものらしいです。水を欠かすと人間は
「干からびるのか……」
そんなに簡単には干からびないはずだ。
ルイスが口の中に水差しを思いきり
「げほっ、かは、ごほっ……!」
「そんな、エミ、おい死ぬのはやめてくれ、エミ!」
私はなんとか呼吸を整えて、
「ヨアヒム、医者を急がせろ!
「……かしこまりました。ルイス様のご命令とあらば」
不服そうな顔をしながらも、スッとお
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