異世界平和のためならば_3
「俺はエミを許嫁として領地会議に連れていく。
「か、しこまり……まし、た」
ヨアヒムさんが白目をむきそうな顔で言う。虫の息だった。
デトレフさんはそんなヨアヒムさんを横目に
「簡易で構わない。参列者は不要。最低限、金の
厳格に執り行え、というルイスの命令に、かしこまりましたと二人は頷き部屋を出て行った。
流れで婚約することになってしまった私は部屋に取り残されて、ばくばく音がする心臓を押さえていた。
「こんやく」
「ああ、許嫁ということだ」
「いいなずけ」
「……顔が赤いぞ、エミ。俺と二人きりでいるのだから、演技は不要だ」
二人きりだなんて言われたから、ますます顔が熱くなるのがわかった。
演技で顔が赤いわけじゃない! え? 本当に婚約しちゃう感じなの?
婚約しましたって言うだけじゃなく、契約するの? 婚約届とかがあってそれを役所に出しちゃうの? 私はほっぺを押さえて叫んだ。
「わ、私、ホントに婚約しなくちゃ駄目?
「役所に書類が回っていないとどんな
「竜の
「不可能だな。弱みを見せた時点でそこを
「領主様の地位から? それは、その、絶対に守らなくちゃ駄目な地位なのかな? ルイスのことが、
本当に、どうしても、どうにもならないんだろうか? ちょっと一日具合が悪かったぐらいで、
ルイスは
夕方の風はすごく寒かったけれど、
手すりに寄りかかり杯を
「──おまえがどういう性格かは、この数日である程度理解はしたつもりだ。だから、領主の座を降りろとでもいうかのようなその言葉の真意も、ある程度はわかっている。
「わ、私、悪いこと言っちゃった、ね……」
頑張っている人に言うべきことじゃなかった。本人がたとえ
妹だって体中が
「なあホシノエミ、おまえ、親に愛されているか?」
「へ?」
「愛されてる、と思うよ?」
「……
「えっ、だって、親でしょ? そりゃうちはちょっと、両親が家を空けてることは多いけど、でもそれはお仕事だからだし。昔はかなり嫌だったけど、今では二人が私のことすごく心配してて大好きだってことも、仕方ないんだってこともわかってるもん。うん……たぶん」
「俺は父親に
ルイスはそう言うと、
「そん、なことは」
「父上は俺の出生に関して母の
風が寒くて、寒くて寒くて、その場にいるのがすごく辛い。
思わず、バルコニーから
そして、引き寄せた。摑んだ私の
「俺が
掌にキスされるのかと思った。
ルイスの熱い
「力を持った者こそが正義。それが我ら竜族の、とりわけシュテルーン領の伝統だ。父上は先祖から引き
「ルイス……、っ!」
摑まれた
ルイスは笑った。
「泣きそうな顔をしているな? ホシノエミ……おまえが飲んだのは、愛した女を奪われ憎悪に
「よく、わかんない……」
「わからない?」
「ルイスが
「まったくおまえは……ならばなぜ泣いている?」
腕が痛いだけではなかった。
ルイスがお父さんととても仲悪そうなのが、
でもきっと、ルイスは同情されるのとかすごく
だから私は全然別のことを言った。
「すごく寒くて……寒すぎて泣けてきた」
「さっさと中に入れ。
「凍死はしないけどー、中に入ろうとしたらルイスが腕を引っ張って邪魔したんだよ?」
「それは悪かったな。湯を用意させるから毛布に
お風呂に入っている内に
「竜族にとって人間と
「確かに
「竜族と人間のカップル? あるんだ?」
「ああ……シュテルーン領では
ルイス、私といると笑われちゃうんだ……。
笑われないようにしてあげたいけれど、
ソファに
「ありがとう、ルイス」
「俺に力を返さずに死なれては困る」
「うう……そうだよね。早く返したいけど、私の身体から力を取り出す薬、手に入らない?」
「今の
ヨアヒムさんとデトレフさんにも話せない。
いつも
「……犯人、どこにいるんだろう?」
「領地会議で俺が議場に入るのを必ず見届けようとするはずだ。……そして、俺が竜になる力を失っていないのを
「
「いいや、行動に出るはずだ」
「そうなの? 一度失敗してるのに」
「──領地会議が終われば、竜王選挙に入る」
「りゅうおう……竜王! だね!」
耳慣れない言葉だけれど、意味はわかる。確かルイスがなりたかったもので、きっと竜族の中で一番
選挙ということは大統領みたいなものだろうか。
「四つの
「選挙かぁ。竜族の人たちしか投票できないとか?」
「投票できるのは竜族の中でも元老院議員だけだ。しかし元老院議員には……人間もいる」
「そうなんだ!」
「ああ……俺が竜王になった
「ええっ、なんで!?」
「
「風邪以外は言いがかりだよ!」
「……それを嫌った者の犯行か? しかし、たかが人間のために危険を
「犯人がわかりそう?」
「いや──俺の力を
「そっかあ……残念」
心当たりのある人たちみんなと仲直りできたら一番いいけれど、きっとそういうわけにはいかないんだろう。
難しい立場に立たされている人なんだと思い知る
自分で用意したんじゃない
もし知らない内に私の世界の時間が進んでいたらどうしよう。そうしたら、弟と妹は私を心配して泣いちゃうかな? 案外、口うるさいお姉ちゃんがいなくなってせいせいするのかもしれない……ぐぬぬ、ご飯を食べずにお
「何を百面相をしている」
「ひゃっ……弟と妹のことを考えていただけだよ!」
大きなテーブルを囲んで、向かい側に座るルイスが興味なさそうな顔をして言った。
「仲がいいのか?」
「ものすごく仲いいよ! あ、でも弟は今、
「そうか……それはいいことだな」
「うん!!」
ルイスは、ナイフの先にあるお肉を見つめながらだけれど、そこから始まる私の
「おまえの世界は、平和だな」
続きは本編でお楽しみください。
異世界で竜が許嫁です/山崎里佳 角川ビーンズ文庫 @beans
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