偽りの恋人_4
妹と弟は私にとって空気みたいなもの。いないから息ができなくなる……そんな夢を見た。
朝起きるともうルイスはいなかった。目じりに溜まっていた
彼は部屋の内装を整えていて、私が起きてきたのにすぐ気づいた。
「おはようございます、デトレフさん!」
「おはようございます、エミ様。ルイス様は湯あみを終えたらすぐに
いくら片時も離れない心づもりとはいえ、お
だから代わりにデトレフさんがいてくれているのだとしたら、ルイスはデトレフさんのことをそれなりに
デトレフさんには、薬を盛られたことを言うのかな、と思いながらデトレフさんの仕事ぶりを
すると空には、巨大な
たぶん、どの竜もすごく大きいのだと思う。先ほど屋根をかすめるかのように飛んでいた姿を見る限り、三メートルか四メートルぐらいはありそうだった。
緑色の竜たちは、青い空に糸を通していくかのように、うねるように、あっという間に、遠く
「すごい……
「綺麗、ですか?」
デトレフさんは意外そうに緑の目を見開いた。
「はい、綺麗です! 今飛んでいた人たち、前に森で見た竜の倍くらい大きかった!」
「もしやヨアヒム
「え?」
「
そういえば、森の中で聞いたルイスを
あの時見た感じだと、一・五メートルか二メートルぐらいだったろうか。
「ルイスは、どれぐらいの大きさなんですか?」
「昨年測られた時には確か、五セタ五十になるかならないかぐらいだったかと思います」
「……ヨアヒムさんは何セタ?」
「二セタより少ないぐらいですね」
一セタ=一メートルぐらいだ!
人の姿の時の身長はヨアヒムさんの方が大きいのに、不思議だなと思いながら空を飛んでいる人たちを見ていたら、デトレフさんは「緑竜が多いでしょう」と声をかけてくれた。
「この領地には緑竜が多いのですよ。シュテルーン家の祖先が緑竜だったそうです。ですが、ルイス様は赤竜なのですよね」
「もしかして、ルイスの目は赤いし、手の
「ええ、関連しています」
「じゃあ、デトレフさんは目と同じ色の緑?」
「そうです。──ルイス様の
頷いたら、デトレフさんは
「
「親しくしているように、見えますか?」
「見えると言いますか、人間の女性にはわかりにくいかもしれませんが、私たち竜族にとって掌に
確かにルイスも
「人間には私たち竜族のこの
「……そんな感じなんですか?」
「そんな感じです。これを機会にルイス様がもう少し丸くなられるといいのですが」
ヨアヒムさんも悪い人だとは思わなかったけれど、デトレフさんはすごく話しやすい。
「なんだ、俺がいないにもかかわらず先に食事を
「おかえりなさい、ルイス。食べてなかったの?」
「まあいい。
「はい、かしこまりました。今後もエミ様のお腹が食べ物を要求し
お腹が鳴ったことを言われている!
「ちょっとルイスを待ってたぐらいで餓死しないし! 次からは待つから!」
「餓死の危険は少しでも
「ルイスたちと同じように、一、二食抜いたぐらいじゃ死なないもん」
「俺たちはひと月ふた月食わなくても死にはしないが」
「あれ!? 私は死ぬ! ていうか、それじゃどうして一日三食も食べるの?」
「
それは本当に笑えない。私はうっかり自分の首を
デトレフさんはルイスの朝食の用意を整えると下がっていった。
デトレフさんがいなくなると、ルイスは手袋の手首部分の
と、そろりとルイスの顔を
「んんんんー!」
「俺のいない間、デトレフに余計な情報を
ルイスの大きな掌で口元が
「
帰りたいに決まってる!
こくこく
「んんっ、ぷは! はー、苦しかった!」
「苦しいだと」
「息ができなかったら死んじゃうよ! 鼻が
「なんだって」
なんだってじゃないよ。びっくり顔をするのはやめて。え? 竜族なら一時間ぐらい呼吸をしなくても──?
「私は死ぬよ! 五分ぐらいで死んじゃうよ!!」
「ああもう、人間というのはもろいな。そういうところが嫌いなんだ」
嫌うのは構わないけれどもっと気をつけて欲しいよね。
死ぬな死ぬな
「これで、またしばらくは
ルイスは私の口を押さえていた掌を眺めてから、手袋を
「何が大丈夫なの?」
「……力の補給率が一番高いのは、俺の鱗におまえの口が触れている時だ」
「そうなの?」
「ああ、
「つまり、ルイスが私に懐くってこと!?」
「
なるほど、私があんなに息苦しくも切ない家族の夢を見たのは、ルイスが朝私の口を
……竜族なら奥さんにしか見せないようなものを思いきり見せて
「……なんだ? 何か言いたいことがあれば言え」
「なんでもなーい……手伝うよ、その手袋の紐結ぶの」
「……ああ、
手首に
線が細く見える人だけれど、なよなよしているわけじゃない。骨ばった手首にそっと紐を回して、手袋がずれないように小さなちょうちょ結びを作った。
ルイスがもう片方の手と紐も差し出したから、私はそれを受け取った。
「……おまえにも手袋を
「そう?」
私が結ぶ姿を見下ろしながら、不意にルイスが言った。
「おまえが竜族に見間違われれば
丸出しの掌を見てみたけれど前より生命線が伸びたかなあ、という印象しか
自分の掌をパーにして
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