偽りの恋人_2
「……痛いか?」
「ううん、痛くない」
「そうか。これぐらいの力なら、壊さないか……」
そして、
「竜族の掌には必ず、こうした
私が目を向けていることに気づいたらしく、ルイスが説明してくれた。
私の手の
「あっ、何これ……?」
「竜族の力の源から
「ルイスが力を使う時には、この竜気? が必要なんだね」
「ああ、そうだ。今はおまえに触れることで流れてくるこれが、俺には必要だ」
どこが始点なのかもわからないぐらい、私の身体の中を複雑に熱が巡る。
けれど
「どうやって力を使うの……?」
気功のような感じだろうか。近くの公園で毎朝六時から
「願えば
ルイスは
ぼんやり見上げていたルイスの
「竜族は、竜になることができる。
ピシピシという音は頰がひび割れる音みたいで、痛くないのだろうかと不安になる。
「恐ろしいだろう」
私の顔を見て、ルイスは満足げに笑った。赤い
3Dアニメでも見ているみたい、と思いながら、私はルイスの言葉を
「恐ろしい? どうして?」
「俺たちがあまりにも
この世界ではそういうものなのか、と思うだけだった。
風邪を引いた私に取り乱すぐらいだから、彼らの身体が
ルイスの
「……それ、痛くないよね?」
「痛いどころか、本来の姿に
「そっか。ならよかった……」
私も大丈夫だよという意味をこめて
安心したら
「何がよかっただと──おい、おい、ホシノエミ!」
「眠いだけ……大丈夫だよ」
私がうっかりルイスの力を食べてしまったせいで、彼には
自分にとって大事なものの命運を、自分よりもずっとか弱い生き物が握っているだなんて、すごく
「死ぬことは許さない。決して俺の
「うん……」
弟妹にたとえたら、本当によくわかってしまった。私が持っているものは、彼にとってすごく大事なものに
大事なものなら、絶対に、彼に返さなくちゃならない。
「片時も離れぬように……その理由として周囲の者を
「ひぁ……恋人のふり? ホントにするの?」
「ああ、俺を愛しているふりをしろ。
朝から、ヨアヒムさんが部屋の前に
「ルイス様、その女を連れていくだなんて、いけませんよ」
「俺はこの者と離れたくないのだ」
「うぐ……で、ですが、
ルイスとヨアヒムさんは先ほどからこの調子で押し問答をしている。
私は
「ルイス様がこの女に情をかけていることはこのヨアヒム、不本意ながら理解
「……頭がおかしくなったのかと疑う」
「ひどい!」
これは制服という、
でも私の
「ルイス様におわかりいただけてよかった。この女には俺が服を
「この者の服が用意できるのを待つ」
「待たないでください。ルイス様が
力を
「俺が命をかけてあなたの大切なものをお守りします。……信じていただけませんか?」
そう言ってルイスを見つめるヨアヒムさんの緑色の目はキラキラしている。
すごく
ヨアヒムさんの真心に打たれた私が見上げたら、ルイスは額を押さえた。
「……部屋から一歩も出るな。大人しくしていると約束できるか?」
「うん!」
「はぁ……」
私の返事を聞くと、ルイスは重苦しい溜息を吐き、手袋
竜気を補給しているのだろう。
しかし、ヨアヒムさんはそうとは思わず、おずおずと
「あの、何をされていらっしゃるのですか……?」
「あまりにも離れがたく、別れを
ヨアヒムさんはぽかんと口を開いたまま固まっていた。
その後ヨアヒムさんは言っていた通り、私の服を用意してくれた。
どれも不思議な模様のある異国風の服で、すごく
「人間を傍に置いているだなどと知られれば……ルイス様のお立場が危ない……しかしルイス様の望み……だが、いやしかし」
ヨアヒムさんは
持ってきてもらった服に
「──おい人間。ルイス様に近づいた目的は一体なんなんだ?」
その声の
「金が理由なら、俺が用意してやろう。はたまた地位か? おまえの親兄弟にそこらの湖の漁業権でもくれてやれば、ルイス様を
私を
ヨアヒムさんは、本当にルイスのことを心配しているんだろう……不良のお友達に
この人が犯人の可能性なんてあるのだろうか。
「ごめんなさい……お金も、何もいらなくて。その、私はルイスをあ、愛しているから」
「愛しているのであれば
ヨアヒムさんの緑色の目の
「無理、です。ごめんなさい……ルイスのことが好きだから離れられないんです!!」
私の目にはこの人が犯人に見えなくとも、今は建前の理由を
お願いだから早く帰ってきて、ルイス……! そう心の中で願ったのとほとんど同時に、ヨアヒムさんが言った。
「もうすぐ、ルイス様がお戻りになる……その前に片づけないとな」
「えっ?」
「やはり、人間などをルイス様のお傍に置いておくわけにはいかない! とはいえ、仮にもルイス様が情をかけた女。むごいまねはしないから安心しろ」
「えっ、そんな、何を」
「ルイス様には遠くへ行ったとお伝えする。自らの意思で、愛ゆえに、とな」
ルイスは絶対に信じないだろう。
だって私たちの間に愛とかそもそもないしね!
「来い! 良い
「や、やめてください! ルイス、ルイスー!!」
「
悪いようにしないって? 絶対に
顔がヤクザみたいだもん。青筋がピキピキ言ってるもん!
「助けてー! 内臓売られちゃうー! 私の内臓はもしもの時に
「意味がわからないぞ! 落ち着け、むごいまねはしないと言っているだろうが!」
あまりにも無力な自分が情けなくて、子供みたいにジタバタしながら
「うああああああん、私の内臓うううううううう!!」
「どこぞに
暴れたけれど簡単に車の中に
「この女を町の外に連れ出せ。西門でいい。そのまま森に
「ロロロロ……?」
タツノオトシゴ(仮)が鳴いた!
「すぐに追いつく。俺が行くまで森に潜め。決して
「ロロ」
「いい子だ。行ってくれ」
ヨアヒムさんの言葉にタツノオトシゴ(仮)が
けど、外からタツノオトシゴ(仮)が
「ルイスー! ルイスー!!」
扉を
ザッと血の気が引いていく。
ヨアヒムさんが言葉の通り、ルイスのために私を遠ざけようとしているだけなら、いい。
ううん、よくないけど……でもそれなら、ルイスが私を
だけどもし、ヨアヒムさんが
ルイスも、もしかしたら力が消えたり道連れにされてしまうかもしれないと思っているだけで、私が死んじゃったらどうなるのか、本当にわかっているわけじゃない。
「ルイス……どうしよう、ルイス!」
もしもヨアヒムさんがルイスと私を引き
ゆるゆるとタツノオトシゴ(仮)は町の中を進んでいく。私は扉を叩いた。声をあげて助けを求めても、聞こえているはずの道行く人は
扉を
車の中を
そして、ガラス窓に杯を叩きつけた。パリンと簡単にガラス窓は
「強化ガラスじゃなくって、よかった……!」
窓から上半身をぬっと出す。すると、タツノオトシゴ(仮)がすぐに気づいたみたいで、尻尾で私の額をぶにっと押してくる。
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