後編

 ――三日後。少年たちは放課後の公園に集った。


「ぜったい負けないでよツクル! ボク、あいつにキスとかヤだからね!」

「わかってるよ。ミサオも協力してくれたからな、今日つかうファイターは最高傑作だぜ!」


「ずいぶんな自信じゃないか。見せてもらおうか、お前の傑作とやら」


「傑作じゃねえ。サイッコー傑作だッ!!」



 ツクルがツールボックスからファイターとなるモデルを取り出すと、ボンドは一瞬目を見開いてからすぐに平静な表情を作り直した。


 ツクルのモデルは、大きな上半身とスマートな脚部を兼ね備えたミドルサイズの人型ロボットだ。

 園芸用ワイヤーで形成した細身の胴体フレーム、胸部両脇にスプレーヘッドを用いたビームランチャーが二基。

 腕はクッキンナイトの調理器具アームをベースに自転車の反射板を装着。

 脚部は網戸取付用ローラーをベースにプラスプーンなどで装甲をほどこした上、フィルムケースで作ったタンクを増設懸架した。

 LEDライトをヒロイックにデコレートした頭部は、言うまでもなく発光機能を残してある。


 そして、右腕には身の丈ほどある棒状の武器――クリスマスツリー用の電飾ケーブルが巻き付けてある――を携えていた。


「製作三日の急ごしらえにしちゃ、けっこうな出来じゃないか」

「三日もかけてみっちり作ったんだ。この“ヴァリダッシャー”で、今度はぜったいに勝つ!」



 かくして、スクラッチファイト・リターンマッチの幕が開いた。


「出し惜しみ無しだ、プラントジャイアント!」


 巨人がシャベルを叩きつける。


「駆けろ、ヴァリダッシャー!」


 ツクルがジョイスティックを倒せば、光の戦士ファイターヴァリダッシャーの脚部ローラーが駆動。

 地面を滑るように走り抜け、シャベルの叩きつけを、薙ぎ払いを、連続突きをことごとく回避する!


「今度はこっちの番だぜ。ツイン・ヴァリアブル・ビーム・ランチャー!」


 胸部と一体化したビーム砲から光の粒子が拡散した。


 一瞬、プラントジャイアントの視界が白い光にさえぎられる。

 目くらましから立ち直った巨人が見たものは、頭上に跳躍してきた戦士の姿だ。


「収束モード! いけぇ!」


 ヴァリダッシャーのビーム砲から、今度は直線状の光が伸びた。

 光線は巨人の喉元に着弾。決定打には至らないものの、たじろがせることには成功した。


「違う種類のビームを撃ち分けられるのか!」

「スプレーヘッドを使ったから、収束率を自由にコントロールできるのさ!」


「そうかい!」


 得意げに解説するツクルに対し、巨人は反撃のアッパーカットを見舞う。

 空中で体を捻ったヴァリダッシャー、着地してすぐ相手と距離をとって手にした得物を正眼に構えた。


「行くぜ。秘密兵器フォトンメイス!」


 ツクルはデバイスのグリップを押し込み、特殊モードを起動。

 ヴァリダッシャーが構えた棒状の武器が全体からまばゆい光を放ち始めた。


 打突武器に光属性ビームのエネルギーをまとわせたのだ!


 戦士はローラーダッシュで助走をつけて跳躍。

 振りかぶったフォトンメイスをまっすぐに振り下ろした!


「ビーム属性など!」


 対するプラントジャイアントは両腕をクロスさせて完璧ガードの態勢。



 そして!



 ヴァリダッシャーのメイスが叩きつけられると、巨人の両腕は巨木から木の葉が落ちるがごとく脱落した!


「パーツの結合が強制解除されただと!?」

「やっぱり合体パーツの接続に”磁石”を使ってたな!」


 余裕顔を崩したボンドに対し、ツクルは逆に不敵に笑いヴァリダッシャーに予告ホームランめいたポーズをとらせてみせた。


「この武器はメタルラック用のスチール棒に電飾ケーブルを巻き付けてあるッ!」

「――――“電磁石”か!?」

「そうとも! 前回の戦いの後、砂場に立っていたお前のファイターに砂鉄がついてるのに気が付いたのさ!」


「見つけたのはボクだけどねー」


 ミサオが冷静にツッコミを入れるが、とにかくツクルの優勢であることに違いはない。

 

「腕を落としたくらいで調子に乗るなよ!」

「それじゃ、足と頭もバラバラにしてやらぁっ!」


 ヴァリダッシャーが再びメイスを構えて走りだす。

 巨人プラントジャイアントは依然、仁王立ちで戦士を見下ろしている――迎撃の意思健在なままに!



「調子に乗るなと言ったよなぁ!」


 ボンドがデバイスのトリガーを引く。


 ツクルは前方に倒していたスティックを真横に倒し、緊急回避行動!


 側転を打ったヴァリダッシャーの鼻先を、巨人の腕がかすめていった!


 二本の腕はプラントジャイアントから切り離されたまま、空中を乱舞しはじめたのだ!


「ネオジム磁石のマグネットパワーには! メガサイズのパーツを遠隔制御するだけのリソースがあるッ!」


 四方八方から飛んでくる巨大パンチはヴァリダッシャーに休む間を与えない。

 手にしたフォトンメイスが拳圧に巻き込まれ破壊された!


 だが、ツクルは。


 デュエルモデラー馬鹿を自負する少年は、窮地に立たされながらニヤリと笑い、両目をギラリと光らせた。



!」



 意趣返しの台詞を吐き、デバイスのグリップボタンでコマンドを入力。


 ヴァリダッシャーは大腿部に懸架されたタンクの一つを取り外し、前方へ放り投げる。


 タンクが敵の遠隔操作パンチに破壊されると、中から緑色のエレメントが――風属性のエネルギーが放出された!


 突風が巨大なプラントジャイアントのパンチを吹き飛ばし、土煙を竜巻のように巻き上げる。


「タンクに色水を仕込んだな!? 小賢しい真似を……!」



 土竜巻が晴れ、標的の姿が露わになる。


 それと同時に、ボンドはマグネットコントロールで巨大パンチを叩きこむ!



 ――だが、巨人の腕は金色の霧に跳ね返された。ヴァリダッシャーが胸部のヴァリアブル・ビーム・ランチャーから拡散ビームを発射したのだ。



 ボンドは改めてヴァリダッシャーの佇まいを確認し、気づいた。

 大腿部のタンクからチューブが伸び、スプレーヘッドで作ったビームランチャーに接続されている!


「ビームの属性を変えられるだとォ!?」

「だからヴァリアブルっつってんだろ!」



 右のビームランチャーから金色のビームが発射され、巨人の胴体に直撃。

 すさまじい打撃ダメージがボンド側のインジケーターに表示された。ショック属性のビームだ。



「なんの、パワーはこちらの方が!」


 両腕を再装着したプラントジャイアントが猛然と前進、正面からヴァリダッシャーに襲いかかる!


 強烈なストンピングをローラーダッシュでかいくぐりつつ、ツクルはエネルギーチューブを残る二つのタンクへそれぞれ接続した。



「ブリザードビーム!」



 左ランチャーが青色のビームを発射!


 とっさにガード姿勢をとったプラントジャイアントの両腕が凍りついた!



「マグマビーム!」



 右ランチャーが赤色のビームを発射!


 ブリザードビームが凍結させた箇所に、今度は灼熱の火炎属性ビームが着弾!


 急激な温度差によるヒートショック・クリティカル効果が発動し、爆発!

 巨人の両腕は今度こそ完全に破壊された!



「うおおおおおおおお!?」

「と・ど・め・だぁぁぁぁぁぁ!!」



 爆風を突っ切って、ヴァリダッシャーが肉薄。

 無防備なプラントジャイアントの本体に、胸と頭部からビームをゼロ距離フルバーストだ!



 直撃クリティカルヒットの表示が両者のインジケーターに表示される。



 膝を折り崩れ落ちるボンドのプラントジャイアントを背にして、ツクルのヴァリダッシャーは勝利のポーズを決めた。




 *


「負けたよ。ビームが効かない相手に更に強力なビームを当ててくるとはな」

「へへ……最初に負けてなきゃ、このファイターは作れなかったよ。またやろうぜ、磨貝蔵まかいぞうボンド」


 死力を尽くした少年おとこ二人は、固い握手を交わした。

 一対の好敵手が生まれた瞬間である。


「じゃあな、ボンド」


 爽やかに言い残して立ち去ろうとするツクルだが、肩をぐい、と掴まれた。


「ツクル、忘れてない?」

「へっ?」

「勝者へのご褒美」


「……げ」


 上目遣いに睨んでくるミサオに、ツクルは思わずたじろぐ。


「勝手にあんな約束しといて、自分が勝ったらチャラとかズルいよね!?」

「お、おい、待てよミサオ。落ち着けって。お前、キスとか嫌って言ってたじゃねえか」

「フ……恰好がつかないな、見立(みたて)ツクル?」


 ボンドは腕組みしてニヤニヤと二人を見る。

 しばらく目を泳がせたツクルだったが、やがて観念してその場にドカと座り込んだ。


「ええい、男の約束だ! ひと思いにやってくれ、ミサオ!」


 がっちり目を閉じて頬を差し出すツクル。

 ミサオが「よろしい」などと言っているのが聴こえたが、無視して石のように姿勢を保つ。



 数秒後。

 天野ミサオの、男子にしてはやたらとシャンプーの良い香りがする黒髪が近づく気配がして。



 ――――少年ツクルは、生まれて初めての柔らかさを唇に感じた。

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百均闘士 デュエルモデラーズ 拾捨 ふぐり金玉太郎 @jusha

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