兄弟な仮想現実空間、ザ・ユニヴァース。そこでは皆、それぞれカスタマイズしたアバターで別の人生を謳歌していた。ネトゲやソシャゲみたいな、四角い画面の中ではない…見るもの全てに首を巡らせ、あらゆるものを直接見る世界である。
そんな世界で、主人公は出会った。
伝説にして最強の剣! ……というマニアックなアバターの、超絶無敵夫人に!
ちょっと読んだだけで、今のYouTuberブームやVR空間での盛り上がりが伝わってきます。作者さんもそちらの方面に明るく、自分でも各種アバターを3Dモデリングで作ってオラれるので、見て感じた経験が凄く作品を盛り上げてるんですね。超オススメです!
日々VR技術は進化している。
自らをアバターに転身させ、あたかもコンピューターの世界に投じる。いつの日かかの有名な「レディプレイヤーワン」のような世界が展開されるのは想像に難くない。
この小説はそんな夢のVR世界を楽しく、そしてコメディチックに描写したストーリーが繰り広げられる。この世界でならどんな荒唐無稽な事でも許される(コンピューターの世界だし)。
自分好みのアバターの姿を変えられる、戦う、ゲームをする。まさに現代における理想郷と言っても過言じゃない。
そんなVR世界をとことん表現したこの小説をどうか見て欲しい。VR知っているけど興味ないって方にも分かりやすく、そして面白く描かれているのだから。
デジタルゲームの世界もはや50年を超えた(たぶん)
その間に、いくつかのエポックメイキングなタイトルとそれが作り出すシーンがあったと思う。そして、その時代の空気を伝えるエッセイやブログがいまも残る。
それは故・矢野徹先生の「wizardry日記」であったり、「むらさきうに」氏の描くUO冒険記であったりするのだが――その時代の技術的限界の中で最高にバーチャルでリアルな体験を求めて冒険に乗り出していった人々の記録は、大航海時代に海へ漕ぎ出た人々の記録にも似て、未だに色あせない。
この「JustV!」は架空のVR体験を(ややこしいな)扱った作品なのだが、そうした各時代の作品と並ぶ貴重な記録となりえるのかもしれない。
本作では現実の今この時に日夜ユーザーが集まってにぎわうVRチャットの、混沌と楽しさをそのままに、作者の独創的な発想が加わって読み手にも「本当にあったらいいなあ」と思えるゲーム世界が描き出されている(本当にあるんだけどね)。
それも、少し以前に空想されていた全感覚ダイブ式のVRMMOといった、陰謀と危難を伴った悪く言えば気負い過ぎの物ではなく、どこまでもカジュアルでコミカルだ。大規模プロジェクトとして構築された世界ではなく、個人で作り上げ持ち寄った世界の連結体である、という部分が大きいのだろう。それはいわば、今日のデジタル技術とネット文化が生み出した精華だと思う。
実際にアヴァターを作り配布しゲームに飛び込んでいる作者さんだからこそ描き出し得る、10年前には想像できなかった世界。セカンドライフの運営だってこんな時代が来るとは予測してなかっただろう。
ゲーム小説、というくくりで期待されてるものとは違うかもしれないが、作者さんにはこれを恐れることなく力の限り描き切って欲しい。そして、みなさんにもぜひこれを読んで、今すぐそこにある「黎明期」を味わってほしいのだ。