百均闘士 デュエルモデラーズ

拾捨 ふぐり金玉太郎

前編

 いま、少年たちは『デュエルモデラー』に夢中だ!


 デュエルモデラー。それは、立体スキャン技術とホログラフ技術を融合させた未来のハイテクホビーである。

 ハンドスキャナーと立体映像ホログラフィの出力装置を兼ねた懐中電灯のようなデバイスで模型を読み取り、現実空間にゲームキャラクターとして投影し戦わせるのだ。



 見立みたてツクル(小5)は自他ともに認めるデュエルモデラー馬鹿だ。


「今日もダイスーなんだね」


 放課後に立ち寄った百円ショップ“ダイスー“の店先で、天野ミサオがすこしあきれ顔で言う。


 黒髪のおかっぱに黒ぶちメガネ、スカートの丈も長め。

 ミサオは外見通りのおとなしい性格だが、幼馴染のツクルにだけはハッキリとものを言えた。


「そりゃ、“ファイター”づくりと言えばダイスーだろ!」

「え、他の人たちはプラモ屋さん行くじゃない。あとボクはセルヤの方が好きだな。可愛いシールがたくさんあるし」

「はぁ~、ミサオは分かってねぇな!」


 ツクルは両手に持った自転車のドリンクホルダーを陳列棚に戻しながら、首をかしげる幼馴染に向き直る。


「プラモ作ったって、出来上がるのはアニメに出てくるロボットだろ。 俺は、自分だけのロボットが作りたいの! 俺が考えた、俺だけのファイターで、カッコよく勝つのがサイッコーに楽しいんだぜ!」


 ニカッと笑い親指を立てるツクル。

 傍らの買い物カゴには、既に1300円(税抜)分の商品が放り込まれていた。



 *



 休憩所を兼ねた店先の工作スペースで、ツクルはさっそく買い集めた部品をずらりと並べ腕組み思案。


「よっしゃ、やるぜ!」


 目を開いたツクルの右手には三ミリ径のピンバイス、左手には同径のプラスチック棒だ。


 隣でミサオが見守る中、ツクルは百円アイテムに次々と穴をあけ、軸を打ち、接続していく。

 あっと言う間に、百円ショップの商品たちは人型ロボットの形になった。


「いっちょあがり! 名付けて“クッキンナイト”!」

「相変わらずはや~い」


 ぱちぱちと拍手するミサオに、ツクルは誇らしげに出来上がったファイターの説明を始めた。


「ボディはドンブリ、手足は便利調理グッズで統一感を出してみたんだ。でもって、頭はLEDキーホルダー」

「わ、光るんだね」

「こうすると“光の属性エレメント”が付与されて、ファイターがビームを発射できるようになるのさ」



「おい、お前。3組の見立ツクルだろ」


 大柄な少年が、小脇に植木鉢をベースに組み上げたファイターを抱えて立っていた。

 もう片方の手にはデュエルモデラーのデバイスを持っている。


「4組の筆頭デュエルモデラー、磨貝蔵まかいぞう 盆人ぼんどだ」

「……ここでやんのか」


 同じデュエルモデラーたるツクルにとって、相手が何を考えているのかは佇まいを見れば十分であった。


「向こうの公園だ」

「いいぜ」


 ボンドの挑発に応え、ツクルも自分のデバイスを手に取った。



「「スクラッチ・ファイトだ!!」」



 *



「レディ――スキャン!」


 お決まりの掛け声と共にデバイスのグリップ部分に搭載されたスキャナーを起動。

 各自が製作した造形物をスキャンして、ファイターのデータを生成する。


 続いて、ライトのような部分を地面に向けてグリップのトリガーを引けば。


「ファイター、ゴーッ!」



 出力された立体映像のファイターが、ARグラフィックで表現された土煙エフェクトを足元に巻き上げて着地した。


「さて、どう攻めるか……?」


 クッキンナイトが敵ファイター“ツチイジリザウルス”を見上げる。


 調理器具を主体にしたツクルのクッキンナイトに対し、ボンドのツチイジリザウルスは植木鉢や支柱などガーデニング用品をメインに組み上げられている。

 おそらく資材の多くをホームセンターで調達したのであろう。首長竜に似た大型ヘビーサイズファイターだ。


 デュエルバトラーにおいて、ファイターのサイズ差はそのままパワーの差になる!


「来ないならこっちから行くぜ」


 ボンドがデバイスのジョイスティックを倒し、ツチイジリザウルスを猛然と突進させる。

 ツクルはクッキンナイトを即座に真横へ跳躍させて回避。


 再跳躍したクッキンナイトがツチイジリザウルスの背後に跳び蹴りを見舞う!


 だが、分厚い植木鉢の装甲はクッキンナイトを跳ね返し、悠々と振り返った。


「これならどうだ!」


 クッキンナイトの眼が光り、白色のビームが発射された!

 鈍重な動きのザウルスは数発のビームを巨体に受ける。

 焦げる表面装甲! 公園の砂場に巨脚を沈めて苦悶するザウルス! ビームは有効だ!


 しかし。


 デバイスのインジケーターにダメージ数値が表示されるのを見ながらも、ボンドは不敵な笑みを浮かべていた。


「フン、そいつが切り札か」


 ボンドがデバイスのジョイスティックを押し込み、ファイターに設定プリセットした特殊機能スキルを選択。



「ギガンティックモード、起動!」



 突如、砂場が間欠泉のように砂を巻き上げ、クッキンナイトのビームが遮断された。


「なんだと!?」


 ツクルは驚愕に息をのむ。


 砂壁の向こう側に、もうツチイジリザウルスは居なかったからだ。



 ――現れたのは、恐竜の意匠イメージをもつ巨大人型メガサイズだ!



「巨大進化! プラントジャイアントッッッ!!」



「お、おっきくなっちゃったの!?」


 戦いを見守っていたミサオは、園芸用品を用いて巨体をなしたボンドのファイターに圧倒された様子だ。


「きっと、砂場にパーツを隠していたんだ。合体して人型になるなんて!」

「切り札や奥の手ってのはな、こうやって使うんだよォ!」


 プラントジャイアントが手に持ったプラスチックシャベルを振り下ろす。


 クッキンナイトの全身に等しい巨大なシャベルだ。

 ツクルはぎりぎりの所で横っ飛び回避し、反撃のビームを発射。


 ビームはプラントジャイアントの左前腕部――追加されたパーツに着弾した。


 そして、巨人健在きいてない


「熱ビームなんかで耐熱シリコンがやぶれるものか!」

「装甲をコーティングしているのか!?」

「その……通ォォォりぃ!」


 クッキンナイトが怯んだ隙をプラントジャイアントは見逃さず。



 横なぎに振りぬいたシャベルが、勝敗を決する一撃となった。



 *


「勝負あり、だ。これで最強のデュエルモデラーは、この磨貝蔵まかいぞうボンド様になったってわけだな」


「くそっ、リターンマッチだ! 次は俺の方も全力で作り込んだファイターでやる!」


 歯を食いしばってにらみつけてくるツクルに対し、ボンドは余裕の笑みを口端に浮かべて鼻を鳴らし。


「いいだろう。だが、ただ戦うだけというのもつまらん。何かを賭けよう」

「賭ける……?」

「そうだな、お前が連れてる天野ミサオが、勝った方にキスすると言うのはどうだ」


「ええーっ!?」


「よし、その条件でかまわん!」


「ええええーっ!?」


 ミサオが抗議を挟む間もなく、二人の男は再戦の約束を交わし終えた。


「勝負は受けたが、ひとつ言っておくぞボンド。ミサオは、男だからな?」

「フン、承知の上だ。三日後、この場所へ来い」


「えええええええー……」



 少年ミサオは、踵を返し去っていくボンドの背中を見送ることしかできなかった。

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