怪異! 絶望! 狂気!

本作はクトゥルフ系列の専門用語が頻出するため、そちらの知識がある方が楽しめるのは間違いない。
が、私はまったくの門外漢であるが、「よくわからんがそんな名前の邪神がいる」程度の認識で興味深く読めた。
つまり、この物語の本質はそこではないということだ。

主人公が死ぬとすれば、それは物語の開始か終了のどちらかだ。
本作では早速物語の冒頭で死ぬ。それも非常識的かつ人間としての尊厳を侵される冒涜的な手法で。
が、なぜか主人公は生きている。夢か幻か、はたまた別の何かか?
しかし生き長らえたとてそれが幸運とは限らない。彼にとってそれは、忘れ去ったはずの悪夢の再開に過ぎなかったのだ。

そうやってこの物語はとにかく転がり落ちていく。緩やかに、確実に。真っ当なところからかけ離れていくのを本人は気づいているのやらいないのやら。
次第にそれは加速し、やがては正気を失っていく。
そうして絶望の底へ堕ちたと思ったら、なんと意外な結末が待っていた。

私は賞賛する。決して怯まなかったその勇気を。
私は賞賛する。邪神相手に弄したその策謀を。
私は賞賛する。決して手放さなかったその愛を。

しかし、彼はそんな賞賛など受け取るような輩ではあるまい。
彼が心から望んだのは他者からの評価ではないのだ。
望みは二つ。一人を殺し、一人を守る。それ以外は命すら要らない。実に任侠だ。

ゆえにそんな彼へ私が言葉をかけるとしたら、もはやそれは一つしか残されていない。

「――ところで君は、ロリコンなのかい?」

その他のおすすめレビュー

古月さんの他のおすすめレビュー73