十八番ホール
弓弦
雨のゴルフ場
・・・・・
私は、平凡なサラリーマンではあるが、ちょっとした趣味がある。
結婚もし、子供にも恵まれたが残念ながら離婚と相成った。
理由は些細な事。
それは、趣味の「ゴルフ」だった。
休日には「家族サービス」などより、同僚とのゴルフを楽しんだし、ヒマさえあれば練習場に足繁く通ったものだ。
妻も、当初は「男の人って、好きよね。」と笑っていたが、職場とゴルフで家庭を省みない生活に疲れ果てたのだろう。
ある日、置き手紙と共に離婚届がテーブルに置かれていた。
私は、ショックを受けたが「仕方がない。」と受け入れ、役所に届け出た。
そして受理されて。
1年が過ぎた。
が、妻子を養う金と、時間に余裕が出来て、ある意味充実したのかも知れない。
初めて行くゴルフ場に、一人。ゴキゲンで向かう。
こういう穴場?は、先にプレーしておいて、友人達に「ここはな?」と語るのもいいし、「穴場」だけに、一人でひっそりと楽しむのもいい。
ただ。流石に一人で18ホールを周るのも面倒だし、楽しみは後に残しておくのもオツなものだ。
なので、10~18ホールを巡る事に。
なかなかのスコアだが、いかんせん、キャディの女性が無愛想すぎる。
生憎の雨だが、小雨なので気にしない。
「次が18番か。スコアは・・それなり、か。」愛想のないキャディに声をかけてみる。
が、先程までのホールでは、「はい。」「ええ。」としか応えてこなかったので、今回も期待はしない。
傘と長髪で顔があまり見えなかったが、ほっそりした美人に思えた。
できれば・・・お近づきにと、も。
ところがその時。
「此処は。」
キャディの声。
「グリーンが難しいのかい?」私は笑顔で問う。
「いえ。痛ましい事があったのです。」
彼女は悲痛、とも思える声音で。
「此処は・・かつて、処刑場でした。」
「え?」
そう言って、打ったボールは、吸い込まれるようにホールへ。
二打で入ったバーディに興奮しながらも、ホールのボールを取ろうとする。
その脇に立つ、キャディの女性。
「落とした首は、その辺に掘られた穴に転がされたそうです。」
「・・・」私はかがんだまま、キャディを振り返る。
カサの下のキャディの首には、赤黒い包帯が巻かれていて。
その時、初めてキャディの表情に気がついた・・・垂下がった舌、濁って視点の定まらない瞳に。
「!?」
ホールに入れたボールを取ろうとした手は・・・・
誰かに強く握りしめられていた・・・・
キャディの一言。
「わたしのように。」
十八番ホール 弓弦 @isle-of-islay
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