水族館で人魚と出会う物語です。
しかし、その人魚の事は主人公しか見えていない。
大きな水槽のガラスを隔て、主人公と人魚は唇を読み合います。簡単な意志疎通をし、彼の不思議な日常が始まるのです。
短編とは思えない程、物語は動きますのでアッと言う間に読み終えてしまうでしょう。
進行する中に心情の変化や背景が無駄のない説明で書かれており、作者様の才能が遺憾なく発揮されていました。そして、ラストシーンに度肝を抜かれる事間違いなしの構成に涙するでしょう。
水族館独特の青い世界。その青が作品全体の静かで悲しい雰囲気を覆い包み、静かな安らぎを与えてくれる。そんな作品です。
この悲しくも優しい作風は私がもっとも至高する雰囲気でした。
離婚やいじめ、心に色々な傷を持つ少年が自分の居場所を探して
偶然見つけたのは水族館で泳ぐ美しい人魚だった。
それ以来人魚に恋し、人魚に会うことが少年の生活になってゆく
しかし人魚にも人魚の事情があった……
人魚が自分の全てと思い、人魚のために生きる少年の姿と
それに応える人魚との交流がとても儚く美しく描かれています。
しかし少年の前から消えゆく人魚、もう会えないと思った少年の行動を私は咎めることは出来ないでしょう。
消える前の一瞬のふれあい、それを生きがいにして歩んでゆく少年。
ここで終わっても十分いいお話でしたが……
私はこの後のもう一発でやられました、ぜひ読んで体感してください!
両親の離婚、そして学校でのいじめの日々――。そんな苦悩の人生を送る少年ハルトは、幼い頃好きだった水族館に8年ぶりに訪れるが……。
『竜宮城の乙姫の正体は、きっと人魚なのだと思う』—―。
上記の出だしがキャッチ―で引き込み方がうまいですね。そして小説全体の象徴的なシーンを冒頭に持ってくるやり方は、何かこなれた印象も。
「なぜ、ハルトには人魚が見えるのか」という最大の謎で物語を引っ張っていくのですが、その過程での、ハルトのルカに対する狂おしいほどの愛情が胸を打ちます。
実際、心の均衡を失ったかのように、誰もが驚く行動にでてしまうハルトですが、その結末はなんと—―。
この結末は予測ができない。しかし荒唐無稽ではなく説得力があるから凄い。
少年の成長、そしてルカの勇気の物語を皆さまも是非(⌒∇⌒)