第7話それが運命と言うのなら

ーー王の剣を探す。

それが、俺がこの世界でやらなくてはならないことらしい。

その後、エリスからこの世界での生活に支障をきたさないように、と行きて行く上で最低限のものを送られてきた。

ジャージと呼ばれる服装と、幾らかのお金、そして、アパートと呼ばれる家を手に入れた。

そして、この世界での俺の名前はかつての名前を使うことが避けたほうがいいと言うことで、改めて、山田ヒロシと名付けられた。

どうやら、この世界では山田ヒロシとやらが普通の名前らしい。


畳六畳間の狭く、少し変な匂いがするこの家で過ごし始めて一ヶ月。

俺は、とてもシフト制のバイトにはつけずに、派遣社員と言う身分で生計を立てることにした。

毎日、朝から晩までバイトに勤しみ、苦労して得た金でものを買い、眠りにつく。

質素な生活ではあるが、決して悪いものではなかった。

モンスターを倒したり、危険な場所に行って死にそうになるわけでもないし、勇者をやっていた頃に比べれば、いい暮らしをしていると思った。

ただ、1つの問題点を除けばーー

「ねぇ、ご飯まだなのー?お腹ぺこぺこで死んじゃうんですけど」

畳六畳間の狭い空間に俺と共同生活を送っている奴がいる。

そいつの名前は、エリス ・ルノワール。この世界では田中エリスという名前だ。

「うるせぇな、今作ってるから待ってろ。ってか、お前いつまでここにいるんだよ、いい加減帰れよ」


「帰れるなら速攻で帰ってるわよ。けどね、王様があんたの見張り役として命令されたから仕方なくいるだけ」

エリスは、部屋の隅から隅までころころ転がりながら、朝食を待っていた。

「ねぇ、まだー?まだなのー?」

「ほら、できたぞ」

俺は、朝食の白米と納豆とインスタントの味噌汁を小さなちゃぶ台の上に並べた。

エリスは、朝食が出てくるとつかさず箸を手に取り、白米に納豆をかけて食べる。

そして、インスタントの味噌汁をずず、と飲む。

「相変わらず、この味噌汁はまずいわね。あんた、もう少し美味しいものを買ってきなさいよ」

「だったら、お前が自分で働いて飯を作ればいいだろうが」

「働いたら負けだと思ってるわ」

エリスは平然とした表情で、朝食を食べながら、そう言った。

ただでさえ狭いこの部屋に俺が働いて稼いだ金で勝手に漫画だのグッズだのその他諸々買いまくったおかげで、食費は奪われ、家賃も厳しいし、もとより全ての元凶であるこの女がこんなんだから、俺の精一杯の努力が水の泡なのである。

ああ、王様、どうしてこんな役立たずのクソ女を俺に送ってきたんですか?粗大ゴミはきっちりゴミ捨て場に捨てていただきたい。

「何よ、さっきから表情暗いわよ。あんたはとっとと、王の剣を持ってきなさいよ。そしたら、私も帰れるし」

「王の剣を探したくても、生活費を稼ぐことで精一杯なんだよ!わかるか?いや、わからないな、お前は働かずして暮らしていこうとする、いわば

ニートなのだから」

「言ってくれるじゃない。元勇者様。けどね、私はあんたと違ってクビになってこの世界に飛ばされたんじゃなくて、あくまで仕事の一環としてきてるの。わかる?この差が、私にはちゃんと職はあるわ、けど、あなたは無職じゃない」

それだけは言わないでください、お願いします。と、頭を下げそうになってしまった。

こんな女に頭を下げるなんてまっぴらごめんだ。しかし、現状、俺が無職であることは事実である。

無駄に勝ち誇った顔をしているエリスに俺はバレないように拳を強く握りしめた。

ーー このサブカルクソ女め、と。


王の剣を探すーー。それが俺の使命であり、魔王から世界を救うために俺にできる唯一のことである。

しかし、その王の剣とやらがどこにあるのか当然俺にはわからず、エリスに聞いて見ても「はは!君は何をしても役に立たないフレンズなんだね!」としか言わない。

役に立たないのはどっちだと言ってやりたいところである。

「まったく、どうして勇者のくせに王の剣の一つや二つ探し出せないわけ?あっ、そっか、元勇者様ですもんね、そりゃ見つけられないか」

それにしてもこの女、つくづく人を怒らせるのが上手なやつである。

「まぁ、どうせこうなることはわかってはいたけど、やっぱりこれを使うしかないみたいね」

エリスはポケットから何やら取り出す。

何やら、ゴムのようなものが出てきた。

「悪いんだけど、このゴムをあなたのアソコに取り付けてくれない?」

「…は?」

「だから、あなたのアソコに…って、女の子に言わせるんじゃないわよ変態!」

「どっちが変態だ!何いきなりとんでもないものを出すんだよ」

「違うわ、これはそんな卑猥な道具ではないわ。これはね、王の剣を探すためのレーダーのようなものよ」

「…レーダーだと?」

ふふん、と笑いながらエリスは誇らしげに言う。

「そうよ、驚いた?これはね王様からいただいた、ありがたい道具よ感謝しなさいよね」

王様ろくなやつじゃないな、ということはよくわかった。

「それで、こいつをつけるとどうなるんだ?」

「よく聞いてくれたわ、このゴムをつけているとき、王の剣が近くにある場合は、あなたのアソコがビンビンになって反応するわ」

「そんな卑猥な方法で王の剣を見つけ出すのか!?ってか、いちいちビンビンになるの?」

「そうよ!そりゃもうビンビンにね」

だから、とエリスは続ける。

「何が何でも探し出しなさい。あなたのアソコはいわば聖剣エクスカリバー、必ず見つけ出し、世界を救うのよ」

聖剣と言うより、性剣だけどな。

だが、仕方あるまい。

たとえ、あそこがビンビンになって、羞恥を晒そうとしたとしても。

ーーそれが運命と言うのなら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王を倒せなかった勇者はクビになりました @10071999

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る