第3話勇者、不審者になる
かつて見慣れた城下町の人々で溢れる景色などどこにもなく、眼前に広がるビル群で覆い尽くされている。
街に出れば、謎の鉄の塊が動き回り、空を仰げば、何もなかったはずの空にはちらほらと飛行物体が見えた。
街の人々は、同じような服装をし、歩みを止めることなくどこかへと向かっていく。
「ここは……どこだ?」
見たことのないものだらけで、訳がわからない。
一体、俺はどうしてこんなところにいるのだろう。俺は何もわからないまま街の散策を続けた。
「ちょっと、君」
後ろから声が聞こえた。振り向くとそこにはおっさんが一人いた。
「こんな昼間から何て格好してんの、ちょっと署まで来てもらおうかな」
腕をがしりと掴まれ、俺はその腕を払いのけた。
「何をする、お前は何者だ」
「警察だ」
そして、俺は警察にどこかへ連行された。
「はいはい、ええと……職業は勇者ねー。ふーん」
警察と名乗る男は、俺に事情徴収という尋問を行い始めて約1時間。
先ほどから、ため息しか吐いてない。
「あのねぇ、不審者通報があったから、見に行ったけど、あんたほんとに大丈夫? 」
不審者?俺が?かつては勇者として、王国中の人々に応援されていた俺が不審者扱いだと?
なめやがって、この警察め。俺の聖剣エクスカリバーの一太刀を浴びれば黙らせることなど簡単なことだが。
「とりあえず、そのコスプレはやめたほうがいいと思うよ。今時、勇者なんて流行らないし」
「お前、この勇者の証である鎧を侮辱するのか!?」
「はいはい、わかったから、いい歳してそんなことしてないで働きな」
そう告げられ、俺は警察署を後にした。
俺は、再び空を見上げた。
知らない土地で知り合いもいない。
見たことのない建物や、乗り物、服装をしているものばかりだ。
挙げ句の果てには、不審者扱いされ、疑われた。さらに言えば、勇者を侮辱されるはめになる。
城下町から漂う果物や野菜の匂い、商人たちが集まって話していた酒場、兵士たちが切磋琢磨していた城の警備姿。
今では、すごく懐かしく感じる。
ここは、どこで俺は何者なのか。
照りつける太陽の光が俺を焼き尽くすかのように肌を刺激する。
額から溢れる汗、溢れるばかりのため息。
そして、周りからの視線を感じる。
「やだ、何あの格好」
「……キモい」
「きっと不審者よ、ここから離れよう」
好き勝手言ってくれるじゃねぇか。
これでも一応勇者だったんだぞ、クビになったけど……。
気づけば、日が暮れて夜になっていた。
寝床もない、食物もない。
人は食物がないと死んでしまう。それを知っている俺は、ひとまず街を歩いてみた。もしかすると、食物を食える場所があるかもしれない。
しかし、街をいくら歩き回っても無料で飯が食えそうな場所などどこにもなかった。
いっその事、野良猫やカラスのようにゴミ箱をあさるしかないのだろうか。
ただ消費されるばかりの体力とともに俺の腹はぐうぐうと鳴り続ける。
「ねぇ、ちょっとだけでいいからさ。俺たちと遊ぼーぜ」
「絶対楽しいからさ、家までちゃんと送るからさ」
俺の視線の先には、何やら、チンピラのような男たちが女の子に寄ってたかっていた。
忌々しい。ああいうやつを見ているとなんだが放っておけないのが勇者たるものの証(クビになったが)
俺は、チンピラ共の中に入り、女の子を救うことにしてみた。
「いい歳して、そんなことしてんじゃねぇよ。クズ共が」
「ああん?誰だ?あんた」
俺の背後に女の子がいることを確認。
よし、あとはこのチンピラ共を倒せばいいだけのこと。勇者だった俺からすれば相手じゃない。
ふぅ、一度深呼吸して、拳を強く握る。
「勇者様だ!馬鹿野郎!!」
それからの記憶は俺にはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます