第6話バイト戦士は砕けない2

少女は、確かにそう言った。

ーー元勇者様、と。この世界で俺のことを勇者だと知っている人物はいるはずがない。

では、この少女は一体何者なんだ?

にこりと笑みを浮かべる少女は、椅子から立ち上がり、俺の方へとやって来る。

「ずっと待っていたんですよ。もう待ちくたびれたわ」

「あの、君は誰なんだい?」

「私は、エリス。あなたの知るもう1つの世界から来た者です。あなたに会うためにね」

「俺に会うため?いったい何のために」

くすりと、エリスは笑う。

「元の世界に戻りたいとは思わない?」

「戻れるのか!?俺のいた世界に?」

俺のいた世界に戻ることができるのか。

俺は、元の世界に戻れることに嬉しさを隠すことなどできなかった。

「ええ、戻れるわよ。ただし、条件があるわけ」

「条件?」

そうよ、とエリスは言葉を続ける。

「この世界に散らばった7つの王の剣を集めることよ」

「王の剣?何でそんなものがこの世界に散らばってるんだ?」

「さぁね、けど王がそう言っているからそうなんじゃない」

嫌に、適当な答えに俺は肩を落とす。

「そういえば、俺のいた世界って今どうなってるんだ?」

「ええ、今、あなたのいた世界は魔王によって征服されてしまったの」

「何だって!?」

「そうよ、どっかのダメ勇者が魔王を倒せなかったせいでね」

いや、そのダメ勇者をクビにして異世界に飛ばした王にも責任あるだろ。

だが、俺はあえて言わないことにした。

「だから、あなたにはこの世界に散らばった王の剣を集めてもらいたいわ。これは、王の命令でもあるんだからね」

王の命令、か。勇者クビになっても、異世界に飛ばされても王の命令は絶対遵守。王様怖すぎかよ。

「とにかく、元の世界に戻りたいなら、王の剣を集めて私のところに来なさい」

何だか、ややこしいことになっている気がする。

「そして、今度こそ世界を救うのよ」

俺は、縦に首を振ることはできなかった。

「あのさ、俺って勇者クビになったじゃん。けどさ、今の話聞いてる限りだと俺は勇者再就職ってこと?」

「いいえ、あなたは勇者にはなれないわ。そもそも、もう新しい勇者いるし」

「じゃあ、その勇者様に頼めばいいだろうが」

「今の勇者は、あっちの世界で忙しいのよ。暇な人は向こうにはいない。異世界にいて、暇をしていて、王国の事情をわかる人なんて、あなたしかいないのよ」

つくづく、面倒なことになっている気がする。けど、俺だって曲がりなりにも勇者だった男だ。王国のピンチとあらば、協力はする。

「わかった、やるよ。俺が王の剣ってやつを集めて魔王を倒せばいいんだな」

「いいえ、あなたは王の剣を集めるだけで、倒すのは今の勇者よ」

え?そうなの?なんか少し期待した自分が馬鹿みたい。俺は深いため息を吐いた。

「あのさ、聞きたいことあるんだけどいい?」

いいわよ、とエリスは言う。

「このチラシのバイトって、もしかしてこれのこと?」

「違うわよ。そもそも、バイトなんてやってるわけないじゃないの。あんたをおびき寄せるためにやっただけよ」

それに、とエリスは続ける。

「バイト1つまともに受からない勇者なんて、聞いたことないわ」

アルバイトしている勇者なんて聞いたことないけどな。

「とにかく、がんばってね。元勇者様」

そう言って、エリスは姿を消した。




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