四章 舞踏会は終わっても_1
四章 舞踏会は終わっても
窓辺から差し込む
「もう……っ。なんであそこで逃げるのよ、リーテ」
ペンを
「いいのよ、王子さまとの
舞踏会最後の日の翌日、リーテは何ごともなかったように使用人の服を着て
イザベラもヴィヴィも逃げ出した理由を問い
「何も言ってくれないんじゃ、わからないじゃない……。お
調子のおかしくなったリーテを元気づけようと、イザベラなりに手を
「何かリーテのやる気を出させること、ないかしら? ……逆に考えれば、
庭園を逃げるリーテの
「……やっぱり、ドーンさえいなければ! 邪魔なのはどっちよ、全く!」
一人
「そりゃ舞踏会なんだから、ドーンがいてもおかしくないけど。でも、まさか自分から寄ってくるなんて思わないし。ヘングスター
「しまった……。お
イザベラは
リーテの不調で心痛めているだろう義父に、さらなる問題を
声をかけると、中から聞こえる返事は
「失礼します、お義父さま。お話があるの。お時間
私室に入ると、義父は手紙の整理をしていたらしく、
「どうしたんだい、イザベラ? リーテのことで、何かわかったのかな?」
「ごめんなさい。やっぱりリーテは王子さまから逃げ出した理由を言いたくないみたい。──お話ししたいのは、リーテのことだけど、舞踏会の夜のことなの」
広げていた手紙を仕舞った義父は、
「あぁ、イザベラ。
書斎机に
「お義父さま、ヘングスター男爵にドーンを
イザベラの進言に、義父は困ったような顔をして考え込むと、諦めるように嘆息した。
「イザベラ、実は私も言っていなかったことがあるんだ。こちらへ来てくれるかい」
立ち上がり手招く義父に応じて、イザベラは造りつけの
低い身長を補うため
中には、
「手紙に、
義父は無言で封筒に書かれた
「リーテに……、ドーンから…………? え、まさかこれ全部っ?」
棚いっぱいに詰め込まれた贈り物と、手に余るほど重ねられた手紙にイザベラは目を剝いた。
「そうなんだ。実は、
手紙を
「舞踏会で彼に、ヘングスター男爵にお会いする機会があったから、それとなく聞いたんだが、どうもあちらはドミニクのこの行動に気づいていないようだった。向こうの奥方は婚約破棄のことをまだ腹に
「わかりました。ドーンも、招いてもいないのに別荘に入り込むなんて無礼な
様子見をしようとイザベラが言えば、義父は何処か
「でも、このことはリーテに知らせておいたほうがいいと思うんです。昨日も今日も、ぼうっとしてることが多いから、ちゃんと言って気をつけさせなきゃ」
「あぁ、そうだね。……イザベラ、リーテに気を配っていてくれるかい?」
「えぇ、もちろん。大切な妹ですもの。ドーンへの注意
「ありがとう、イザベラ。……すまないね。私がドミニクとの婚約話を持って来なければ──」
「いいんです。お義父さまは悪くないですよ。ドーンが不実なのがいけなかったんですから」
「ドーンからの手紙や贈り物も、ヘングスター男爵の目を盗める別荘だからできるんでしょうし。社交期が終わるまでリーテに近づけないようにすればいいんです」
希望的観測を口にして
「それじゃ、あたしはリーテにこのこと話してきますね。お義父さま、失礼します」
努めて明るく声を出し、イザベラは義父の私室を後にした。
「本当、ドーンさえいなければ……っ。人間、中身が大事よね」
リーテの心を
「あら? この声は、ヴィヴィ。リーテの様子見に来てくれたのかしら?」
足を
「ほんと、いつまで甘えてんの? いい加減うざったいんだけど。リーテが
「別に、わたしが
普段よりも小さい声量ながら、確かに言い返すリーテにヴィヴィは舌打ちを吐いた。
「それが甘えてるっての。やってもらって当たり前だとか、
「わたしがそうしてほしいなんて、言ったことないよ。周りが勝手にするだけで、わたしがしてほしいこととは
険悪になっていく言い合いに、イザベラは慌てて
胸の前で
ヴィヴィを見上げるリーテも、泣きそうに顔を
「誰のためにあれだけ
「イザベラが好きでやってるだけで、わたしは関係ない。舞踏会に行かせるって言い始めたのもイザベラだし、王子さまと結婚しろって言ったのもイザベラ。どうしてわたしが
ヴィヴィとリーテは姿をみせたイザベラに気づかず言い合いを続けた。
「はぁ? そういうこと言うわけ? 確かに世話焼きすぎてうるさいし、
「そうでしょ。あれはイザベラの勝手な押しつけで、わたしのせいじゃない。いつも口うるさく命令してばかりで、結局イザベラ自身が何もしてないじゃない」
「だから……っ、そういうことじゃないって言ってんじゃん。あんたがまず──っ」
言いかけたヴィヴィは、リーテが背後を指差していることに気づき、イザベラを振り返った。
「……ベラ、いつからいたの?」
しまったと言わんばかりに目を
「あぁ、もう。面倒くさいなぁ……。ベラ、今のは──」
赤毛を引っ張って言い訳を口にしようとしたヴィヴィに、イザベラは思わず足を一歩引いた。一度
「あ……、ベラ! 待っ──」
何も聞きたくないという心のままに、イザベラは別荘の裏手から逃げ出した。
裏門から別荘の外へと飛び出したイザベラは、
角を曲がり、別荘の塀を背につけ乱れる息を整えようとするが、胸を
「…………あたしの、独りよがりだったってこと……?」
吐き出す言葉が舌に苦く広がる。
妹のためと言い訳をしても、当人にとって
石がつかえたように重く苦しい胸を押さえたイザベラは、
「お
「フリッツからの……手紙?」
初めてのことに目を見開くイザベラへ、使いだと名乗った者はごく
封蠟に印は押されていないが、差出人にはフリッツと
イザベラは会いたい気持ちを
「……
自身に言い聞かせると、封蠟を割って手紙を取り出した。別荘の中に戻ってヴィヴィやリーテと顔を合わせるのは
時候の挨拶、イザベラの様子を案じる文面、リーテを
「しばらく、来られない……」
家の事情で
「うん……? どうしてあたし、こんなにがっかりしてるのかしら…………?」
胸に
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