一章 男爵家の三姉妹
一章 男爵家の三姉妹
「いい加減に……っ、しなさいよ、このお
短い夏を楽しむはずの男爵家
「またスカートに灰がついてる。灰の中で
フェルローレン男爵の
「アッシュでも、構わないけど。……でも、イザベラ」
「でもなんて言い訳しないの! いったいいつからそこ
比して
終わらないイザベラの説教に、リーテは
「ちょっと、
「イザベラさまになんて言うんだ? 正妻の娘だぜ。歯向かったら俺らが
「なら、アシュトリーテさまこそ男爵家の一人娘じゃない! あっちは後妻の連れ子──!」
声を大にした女使用人に、
「だからこそだよ。男爵さまの愛情がなくなったアシュトリーテさまは、こうして
イザベラは背後に集まる使用人に気づかず、リーテを睨み下ろした。
「そんな汚い格好で掃除するなんて、
「だって……、新しい服ちょうだいって言っても──」
「あんたにあげるわけないでしょ、お馬鹿! 自分の立場わかってんの?」
「うん、わかってる。……だから」
「
胸の下で
容姿も体型も対照的な義理の姉妹を見比べて、男使用人が鼻を鳴らした。
「女の
「本当にどうして……。本物のお
老いた使用人が目元を
「そうよ。別荘にいらしてから一度だって、アシュトリーテさまのドレス姿見てないわ。せっかくの社交期なのに、どうして
服も満足に
「もう
「おい、ケーテ。早まるな……っ」
仲間の制止も聞かず、
背後では、赤い縮れ毛の男爵家次女ヴィクトリアが半眼になって
「いつまで仕事ほっぽり出してんの。さっさと持ち場に
「ヴィヴィ、びっくりするじゃない。なんなのよ、いきなり」
「気づかないとか……。ま、いいや。で、そっちもいつまでやってんの? せっかく別荘来たのに毎日ベラの怒鳴り声とか、いい加減にしてほしいんだけど」
イザベラは肩を
「そんなこと言うくらいならあんたも手伝いなさいよ! それに、その
一つしか年の違わないヴィヴィは、イザベラの怒声など左から右へと聞き流してリーテへ目を向ける。
「てか、リーテが言うこと聞けばいいだけでしょ。さっさと
ヴィヴィの言葉に、リーテは手にした掃除用ブラシを見下ろして
「えぇ? やだよ……。わたし、お風呂
リーテの口から出た否定の言葉に、イザベラは全身を
「やだじゃないでしょ、このお馬鹿! 本当にアッシュって呼ぶわよ!」
「それはいいよ。わたし、灰好きだもの」
「そういうことじゃないの! あぁ、もう……」
リーテの的外れな答えに、イザベラは額を押さえる。
そんな両者に呆れたヴィヴィは、だらしなく
「だから言ったじゃん。
「何言ってんの、ヴィヴィ! まだここじゃ
「それ、ベラが怒鳴ってようやくじゃん。
ヴィヴィに
「こら、リーテ! 掃除はもうやめなさいって言ってるでしょ。お風呂掃除のついででいいから、あんたの体の
「お掃除は好きだけど……。体洗うのは
誰もが守ってあげたくなるか弱さだが、言葉の内容にイザベラは眉を吊り上げる。いい加減、説教だけではリーテが動かないとわかっていた。
「あぁ、そう……っ。じゃあ、灰の好きなお馬鹿さんでもやれる仕事をあげようじゃないの!」
引き
「え、やだよ……。お風呂は、や、いや…………! 乱暴しないで……っ」
掃除用ブラシを取り落とし、泣き言を口にするリーテに、ヴィヴィは目を
「……やっぱ、
イザベラはヴィヴィを振り返り、ついてくるだけの妹に声を上げた。
「ちょっと、ヴィヴィも手伝ってよ。こら、リーテ。ちゃんと歩きなさい」
「やだよ。リーテに
ヴィヴィは
「だからって、誰も何もしないんじゃ、この子一生このままよ! 早くに母親を
初めてリーテと出会った日を、イザベラは忘れられない。住み込みの家庭教師として
母は家庭教師、イザベラとヴィヴィは遊び相手として共に生活して一年。義理の姉妹となってまた一年が経ち、ようやく改善の
イザベラが進む先には、洗濯の干し場に
「で、リーテに何も言えなくなってた使用人説得して、お義父さまに造らせたリーテ専用厨房に乗り込んで、
手を貸す気のないヴィヴィが指すのは、風呂は嫌だと大きな
「割に合わないわぁ。一年かけてもリーテの意識、何も変わってないじゃん」
本人に変わる気がないのに気力と体力を使うだけ
「それでも、このままってわけにはいかないでしょ。──少年老いやすく、学なりがたしって言うんだから。女の子なら……、少女老いやすく、
「ベラ、そこは命短し、
「このリーテが自分で恋してくれるならそれがいいわよ!」
勢い怒鳴るイザベラの
「あぁ、無理っぽいねぇ。アッシュなんて呼ばれて灰が好きだとか言っちゃうリーテと、
想像がつかないと全否定するヴィヴィに、イザベラは
「一つ二つの欠点なんて
「諦めてよぉ……」
嫌々ばかりのリーテは、イザベラの決意に不平を
「そうはいかないわよ! あんたが行き
「てか、ベラ何処いくの? ここ厨房の外じゃん。何もないでしょ」
ヴィヴィの問いでようやく行き先が風呂場ではないと気づいたリーテは、目から涙を
イザベラの目の前には、地面を覆う
豆
「
言ってイザベラが手を放すと、リーテは落ち着きなく豆の山と
「いいの? これ、全部剝いていいの?」
「いいわよ。……ただし、ちゃんと敷布の上でやること! 終わったら豆の
首を激しく上下に揺らしたリーテは、飛びつくように豆剝きに取りかかった。
「あれ、何が
「豆を剝いた後に、中身の詰まったいい豆か悪い豆かを選別するでしょ? あれで水に豆を入れて、浮いてくるのを見るのが楽しいらしいわよ」
ヴィヴィの問いに答えるイザベラも、リーテの
「てか、あれだけの豆どうするの? どうせリーテは食べないじゃん。身の
口角を下げたイザベラは、摑んだリーテの
「うぅん、やっぱりもっと食べさせなきゃ。顔色も悪いし、元の色が白いから余計に傷も目立つし。昨日も何処かで打ち身作ってたし……」
対策を練ろうと
「やだよ、わたし。お肉も野菜も
わがまま放題の発言に、イザベラが怒鳴ろうと息を吸い込んだ
「そう言えばさ、ベラ。
「フェルローレン男爵家では今、
「……え、…………は? えぇぇええ! 何それ、信じられない。そんなでたらめ──!」
イザベラが嚙みつくように声を
「だから、それ。あたしずっとうるさいって言ってたじゃん。ベラ怒鳴りすぎなんだよ。リーテも高い声で泣き
自覚すべきだと言うヴィヴィは、豆剝きに必死のリーテへ同意を求める。一も二もなく頷いたリーテは、興味ないような様子できちんと聞いていた。
「うん……、怒鳴りすぎだと思う。もっと、
「調子に乗らないの、お馬……っ、か」
怒鳴りそうになる勢いを嚙み殺すイザベラに、ヴィヴィは意地の悪い笑みを向ける。姉としての
「わかったわよ……っ。怒鳴らないようにする。けどね、リーテ。あたしは
「えぇ? もうお風呂やだぁ……。顔は洗ってるのに、まだやるのぉ?」
豆を剝きながらぶつぶつと不満を口にするリーテを
「昔は
ヴィヴィの
「でしょ! やっぱり日々の積み重ねが大事なのよ。その内リーテも自分からお風呂に入るように──!」
「ならない! ならないからもうやめようよぉ……」
青い瞳を豆から
「ならなきゃ
「わたしまだ社交界に出てないから、関係ないもん……」
小さく反論するリーテに、イザベラは言い聞かせた。
「確かにリーテが社交界に出るのはまだ先よ。社交界に出てなきゃ子供
けれどと続けようとしたイザベラに、ヴィヴィは茶々を入れる。
「別にリーテが先でもいいし。年功序列っても、あたしら養女だからリーテ優先してもいいっしょ」
「駄目なの……っ。順番も守れない、慣例を
怒鳴りそうになる
「やっぱり、わたしの
「何言ってるの、お
ふと顔を上げたリーテは、
「それ、イザベラの経験?」
「……っ! …………い、
言い
「そんなこと言うなら、少しはお
「わかってるなら今は自分の心配してなさいよ! ドレスも自分で用意するとか言ってあたしに手出させないし!」
気まずい思いを
社交界では
昨年社交界に出たイザベラには、義父となったフェルローレン
「……お義父さまのためにも、あたしがリーテを更生させなきゃ」
声にしない呟きは、隣のヴィヴィにも聞こえてはいない。
婚約破棄で気落ちした義父を元気づけるには、
「別に、ドレスとかは自分でどうにかするけどさ……」
呟くヴィヴィは赤毛の先を
「ね、ベラ。踊る相手ってさ、やっぱりお義父さまが決めてくるのかな?」
「そりゃ、フェルローレン男爵家の娘ってことで出るんだから、この家と交友のある家に
口にして思い出すのは、義父の旧友の
「
ヴィヴィを元気づけようと口にした名前が、ひどく苦く感じる。
元から下がった口角をさらに下げたイザベラに、ヴィヴィは
「他人の心配より、自分のこと心配しなよ、ベラ。ドレス準備できてんの?」
「あたしはいいのよ。もうお披露目した後だもの。目立つ必要もないし」
肩を
「ドレス作りならわたし、手伝うよ。お
「ヴィヴィの手伝いならあたしがするわよ。ほら、中に
いつまでも豆
「お昼には様子見に来るから」
豆剝きに戻ったリーテは生返事。肩を竦めたヴィヴィは、さっさと別荘の角を曲がっていく。
後を追ったイザベラは、声を
「ねぇ、ベラ。あれ、
干し場の向こうを指差すヴィヴィに促され、
細身の
「……イザベラ…………?」
耳に
「ベラ……、知り合い?」
早口で囁くヴィヴィに、イザベラは全力で首を横に振る。
近づく青年の服装をよく見れば、派手な
「あんな上流貴族の知り合いなんて、いないわよ……っ」
声を潜めて返したものの、イザベラは
身を寄せ合うイザベラとヴィヴィの前で足を止めた青年貴族は、
「あ、あの! …………どなた、ですか?」
信じられないと言わんばかりに
「……俺を、覚えていない? ベラも、ヴィヴィも?」
不意にヴィヴィは
「あれ……? もしかしてフリッツ?」
「え、何処に? フリッツって、あの小さなフリッツよね。何処にいるの?」
ヴィヴィの口から出た懐かしい名に、イザベラは反射的に声を出したが、
ゆっくりと視線を上げて目の前の青年貴族を
聞き覚えのない声。
ただ一つ、
「え、ほ、本当に、あの……フリッツ、なの…………?」
信じられない思いがそのまま
「ベラ、会いたかった。国に帰ってくるのに七年もかかったんだ。……覚えてないのは、その…………しょうがないさ」
「覚えてないわけないじゃない! でも、そんな……、わかるわけないでしょ!」
「わかるわけないじゃん。フリッツって呼んだのも当てずっぽうだし。昔の
知った相手とわかった
七年前、国外へ行かなければならなくなったと泣いていた少年の面影と言えば、瞳の色くらいのものだ。髪さえ黒味が強くなっており、顔つきは泣き
「そんなに変わったかな? 確かに身長は伸びたけど……。──いいさ。こうしてちゃんと再会できたんだ」
フリッツは黒褐色の髪を
「フリッツ、でもどうして、あたしたちがここにいるってわかったの?」
別れたのは、まだ実父と共に暮らしていた時分のこと。七年も会っていなかったフリッツが、どうして
「それは、
訪ねようとしたところで、塀の向こうから声がしたのだと言う。そうして裏門に回ったところで、折良くイザベラとヴィヴィが現れたのだ。
「わざわざ、そんな……。大変だったでしょ。帰ってくるのに七年ってことは、今年国に帰ったばかりなんじゃないの?」
幼い日から七年も
「誰よりもまず、ベラに会いたかったんだよ。俺はベラに──」
「そうだ! フリッツ、
リーテを紹介しようと笑みを向ければ、何かを言いかけたフリッツは髪を搔き回して一つ頷いた。
イザベラは勇んで
置いて行かれる形になったフリッツに、ヴィヴィは堪らず
「ぶふ……っ、間が、間が悪いって。フリッツ
口を
「ヴィヴィ、本当に同情してくれるなら、笑わないでくれないか?」
「会いにきたとか言ってたけど、あれ、絶対ベラに通じてないって。ぷぷ……っ」
「いいさ。再婚して一年だと聞いているし、生活が変わって大変なこともあるだろ? 七年ぶりなんだ。今さら
「うわぁ、あの泣き虫が変わるもんだね……。うちの『お姉ちゃん』は変わってないよ。相変わらずお
「つまり、俺も小さい
「それ、聞く意味あんの?
半眼で向けられるヴィヴィの
変わらず豆
「あら、二人ってそんなに仲良かったっけ? ……ま、いいわ。ほら、リーテ。ちょっと豆剝きやめなさい。あたしたちの幼馴染みのフリートヘルムよ。前住んでいた家が近所だったの」
「はい、どうも……。今いいところだから、わたしに構わないでいいよ。ここで大人しくしてるから、イザベラたちはゆっくりしてて」
豆剝きをやめないどころか顔さえ上げないリーテに、イザベラは肩を
「リーテ! 挨拶一つまともにできなくてどうするの!」
イザベラの
「なるほど……、ずいぶん変わったお
「そうなの。よく知ってるわね。家事が
変わっていると笑うフリッツの表情に
まともな育て方ではないと、義父は家庭教師たちから散々な言われようだったと聞く。
「あ、せっかく訪ねて来てくれたのに立ち話ばかりでごめん。すぐお茶
「ううん、いらない。ここにいる。豆剝きしてるから気にしないで」
「……じゃあ、ヴィヴィはフリッツを客間まで案内してね。あたしはお茶持っていくから」
「あたしもいいや。フリッツ、
「ベラ、君がいいなら
フリッツの
目指す木立の向こうには、湖面が反射する日の光が銀色に
飛来する水鳥は
ノルトヘイム王国の別荘地帯は大きな湖を中心に広がり、湖を見下ろす
城の対岸は下級貴族の
十歳にも満たない頃、別れたフリッツを思い
「……あら? フリッツ、帰って来たってことは今
聞いてから、イザベラは
言い直そうとした途端、
「あぁ、帰ったよ。本邸にね……。妹と、初めて顔を合わせた」
「妹? え、つまり、後妻さんが子供産んでたってこと?」
頷くフリッツは、父親の再婚により
フリッツは同じ年頃の子供の中では身長が低かった。
年相応に成長したフリッツは茶色い
「妹は六年前に生まれていた。今思えば、突然国外行きを決められたのも、あの人が
当時もそうして
「ベ、ベラ……。さすがに、この年になって頭を撫でられるのは…………」
突然のことに固まっていたフリッツは、耳まで赤くして言葉を
「あ、ごめん! 別に今のフリッツを子供扱いしてるとかじゃなくて、その……」
「いいよ、わかってる。ベラは昔から
真っ
ただ柔らかな声音に
「ベラのほうの話も聞きたいな。俺がいなくなってから、今までのことを」
「話すほどのことなんてないわよ? お母さんと別れるまで、ずっとお父さんは変わらず
家庭内暴力を振るい偉ぶる実父のことは、フリッツも知っている。家庭
言葉を切ろうとしたイザベラに、フリッツは先を促して目を合わせる。散歩を切り上げるには早く、イザベラは湖畔を左に見て歩きながら口を開いた。
「……お
女性にしては身長が高く、骨ばった体をしている母は、自身とは真逆の異性に
「あたしのことも
「…………婚約者?」
背後に聞こえる
目が合ったフリッツは、急ぐ足取りで追いつくと、
「驚いたな。ベラが、そんなに早く婚約していたなんて。いや、
察しの良いフリッツに、イザベラは
「えぇ、そうよ。去年社交界に初めて出た時に、お
義父に対する罪悪感と、一年
「ベラ、他意はなかったんだ。──勿体ないと言うくらい、義父になったフェルローレン男爵は、よほどベラにいい人を選んだんだね」
言葉を選ぶフリッツの
「そう、お義父さまはあたしのこと考えてくれたの。評判の美男だし、年も上の大人で。お
生まれ持った顔は整っており、年長者には
ドーンとの婚約破棄を
不意に顔を
「ベラ……、さっきから
案じる思いの滲むフリッツの問いに、イザベラは
「実は、もう婚約は破棄してるの。相手はヘングスター男爵家の長男、ドミニク。……ドーンの心変わりが、婚約破棄の理由よ」
ドーン本人に未練などはない。どころか、ドーンと
けれど、やはり口にした事実に気が重くなる。優しい義父の心遣いを無下にしてしまったと思えばなおさらだ。
「心変わりなんて……。不実な婚約者が最初の舞踏会の相手だなんて。…………
ドーンが心変わりをしたことで、婚約破棄を申し入れたのはイザベラからだが、実質的には
息を
「そうね、相手が悪かったわ。おかげで舞踏会嫌いになったもの。まぁ、もともとあたしには社交界の雰囲気が
女として
「それに、
イザベラが気を持ち直したことで、安堵に笑みを
「ベラはそのままでいいよ。落ち込んでいるよりも笑っているほうがいい。ベラの笑顔は今も昔もとても温かくて、どんな表情よりも
さらりと
「そ、そんなこと、初めて言われたわ……っ。あたしなんて──」
上ずる声音を笑って
「そんなことないさ。ベラの笑顔は十分
イザベラの
「ヘングスター男爵家のドミニクには、とんでもなく見る目がなかったんだな。そんな相手と一緒に参加したんじゃ、舞踏会が
断言するフリッツを
「ふふ、ありがとフリッツ。でも、舞踏会で気が重いのはそれだけじゃないの。──今年ヴィヴィが社交界に出るんだけど、そっちにお金かけるじゃない。去年お世話になったあたしがまた、
言って、イザベラは無理に笑みを作った。表情を作るのが得意ではなく、口元の引き
「勿体ないな。今年の舞踏会は、世の女性なら誰でも興味を惹かれるだろう
思わぬ言葉に茶色の
「実は、今回の城での舞踏会は第二王子のお披露目の場でもあるんだ」
得意げに告げられた言葉に、イザベラは
「春先に
動じないフリッツは
「舞踏会には第二王子のお披露目以外に、もう一つの目的がある。──今年の舞踏会で、第二王子の
「えぇ……? 噓だぁ」
予想外の言葉を耳にして、イザベラは半端な反応を示す。
ここノルトヘイム王国は決して大きな国ではない。国や領地が寄り集まって
社交期に城で行われる舞踏会は、ヴィヴィのようなお披露目のためだけに参加する下級貴族も混ざっているのだ。国王の
「第二王子はとても女性の好みに
それらしい説明をするフリッツだが、イザベラはやはり
「別に、どうしても今年お妃を決める必要なんてないでしょ? 第二王子ってあたしたちと年変わらないって聞いてるわよ。好みがうるさいにしても、時間をかけて説得するべきじゃない。人が集まるからって、何も今年の舞踏会で妃を選ぶ必要はないはずでしょ?」
イザベラも、フリッツが噓を吐いているとは思っていない。ただ、
「ベラは、第一王子のことは知ってるか?」
「常識程度だけど、ご立派な方と聞いているわ。……そう言えば、まだ第一王子も
イザベラの疑問に、そこだとフリッツは言った。
「第一王子と第二王子は
話の流れが
「それに第一王子の周辺には、若く勢いのある勢力が形成されつつある。
第二王子の王妃探しを急ぐ理由は、国内で影響力の弱い王子の地盤を築くためであり、結婚という
「……つまり皇太子争いの、
「ざっくり言うと、そういうことだ。王妃の
「だから国民の好感度上げようってのね。──妃探しを
明るい話題ではあるが、舞踏会に興味を
フリッツは
「いや、第二王子の妃になれる条件はたった一つなんだ。城の舞踏会に招かれる
美貌さえあれば王子の妃になれる。関係ないと聞き流しかけたイザベラは、ふと気づいて息を止めた。フリッツの言葉を理解し始めると、指先にじわじわと熱が広がり興奮がせり上がる。
二人の頭上を、水鳥が羽音を立てて飛び立っていった。湖に目を向けたフリッツは、総毛立って思考に
「何それ……! すっごいことじゃない!」
「舞踏会に行けば王子さまにお会いできるんでしょ? だったら、会いさえすればいいのよ! 会いさえすれば……、リーテなら絶対にお妃になれるわ!」
「ありがとう、フリッツ! 素敵な情報よ。玉の
「そうと決まれば、豆
言うが早いか、イザベラは長い
七年ぶりの再会にも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます