Track #11 Remember Tomorrow
Lato di Eisernen Jungfrau
俺達は魔物達を圧倒し始めた。時々現れる魔物の首領と思しき女、アイズミックとやらを何度か撃退することも出来た。もう少しで魔女のいる領域まで手が届く。
ナミアの様子も変わって来た。今までは戸惑いが大きかったが徐々に勝利に喜びを見せるようになった。リルムとの関係はどうなったのか。いい方向へ向かえばいいが。もちろん彼女にっとってのいい方向だ。
ある時、俺はナミアにいくつかの報告を上げる為に彼女の部屋を訪ねた。ノックをしても返事がない。鍵がかかっていなかったので扉を開け中を覗くと、彼女は机に突っ伏して眠っていた。
俺はその姿に惹かれた。本来は近づいてはいけないのだろう。だが、足が進み彼女の傍に立った。だが、そこで我に返った。そのまま立ち去ろうとした時――
「うん?」
彼女が目を覚ました。俺を見る。始めは呆けた表情だったがすぐに目に力が溢れた。そして――
「ぎゃあ!」
と言って立ち上がる。机の上のものがバラバラと床に落ちる。散らばったものに目を向け、足を滑らせて転ぶ。さらに散らかる。そしたますますあたふたとする。俺は噴き出してしまった。
しばらく時間が経って、落ち着きを取り戻したナミアに謝ってから散らかったものを片づけようとした。ナミアは再び取り乱す。俺に見られてはまずいものだったのか? だが、俺はもうそれらを手にしていた。そしてこの世界の文字で書かれた文書に目を落とす。
「……これは……?」
そのまま、読んでしまった。そして、猛烈にのめり込んだ。何か叫び声が聞こえるようだが、それでも止まらなかった。
―――
「……そうか……俺の為に……すまないな」
「い、いや、別に……」
しばらくの間、『赤い領域』『クレアバイブル』そこで見つけたこと、それらについて話していた。
エアリエルは時々ナミアについて行ったものの、翻訳しないこともあったそうだ。やはり気まぐれな奴なんだろう。そして、エアリエルが読めないものも多かった。それをナミアと共に訳すこともあったそうだが、それも時々だったと。
俺は一つの決意を持った。ずっと感じて来たわだかまり。それを解決するための方策。そこへ至るための道。その道を歩く決意をナミアに話し始めた。
「この作者だが、俺と似たところがあると思わないか?」
「そうだな。そんな気がする」
「気付いた事を言ってくれないか?」
「ああ……。この一連の文書を書いたものは、最後に注意書きをつけることが多い。そして、相対することを並べて書くこともある。そして、書かないにしてもその存在をほのめかしているように思う。そこが、お前と似ている。」
「そうだな。俺の想いを語ると、こうだ。
俺の記憶にある人々は、
『何か一つが正しいとすると、そのほかの全ては間違いである』
とみなす傾向が強かった。この作者はそれを恐れているように思う。
恐れるというのも妙かもしれない。この作者は反論を恐れているのではない。
何かにすがり、それに追従する。それだけを続けた末に『間違っていた』と気付く。もしくは気付かされる。そうすると猛烈な恨みが生じる。その力の暴走を恐れているんだな」
「なるほど」
「多様性を認める、という事は思った以上に難しいのだろう。それはこの世界でも同じようだ」
「ええ」
「この世界にも様々な種族がいる。その姿を見て、俺はあるものを見つけた。そして、それをさらに探求すること。それが俺がこの世界に呼ばれた理由なんじゃないだろうか?」
「理由って?」
「この前、少し話してくれたよな。俺が現れる前の前兆の事」
「ええ」
「もう一度、話して欲しい」
彼女は頷き、語り出す。
「お前が現れる前、この国の各地域に妙な文字が現れることがあった。災いの前触れではないかと恐れる者達も多かった。その為、タ・ルカが動き出した。私は彼の手伝いをすることになったんだ。部隊を率いてその文字が現れた場所を調査する役目を負った。
現れた文字はこの国のものではない。他国のものでもない。恐らくは別の世界の文字だ。その辺りも調べていった。その時にあの施設との縁が出来たんだ。
文字を現れた順番で並べると、こうだ。
M I S S M I S T R E A T E D
その時は、何のことかわからなかった。だが、その文字は円を描くように現れていた。その中心には当然注目が集まる。だが、いくら調べても怪しいものは何も無かった。だが、ある時そこへ突然嵐が巻き起こった、というわけだ」
「うむ。この文字列の意味だが、どう見る?」
「今の私は少しだけわかると思う。恐らく読み方は『ミス・ミストリーテッド』だ。意味は『虐待された女』だと思う。だが、ちょっとこの表現は妙だ。何かが引っかかる」
「そうだな。続けてもらって良いか?」
「ええ。もう一つ捉え方があるかもしれない。そうだとすると『虐待されなかった』ということ」
「ああ」
「『虐待されなかった』とはどういうことか? つまり、その場合は暴力によって虐げられたわけではない。と言いたいのか? それとも、酷い状況を述べながらも『それは自分の体験ではない』と言っているのか? 私に思いつくのはこんなところだ」
「そうだな。ありがとう。俺も正直よくわからない。だが、俺が時々、自身のことのように酷い状況を語ることがあったと思う。その辺りの記憶はどういう状況か、まるで整理がつかないんだ。もしかすると、俺も何かの真似をしているだけなのかもしれない。だが、辛さは本物と感じる。いったいこれは何なのか? だが、俺にはその辺りを探る使命があるように思うんだ。そしてその為の力が……何らかの力や可能性がある」
「ええ」
「そう思った時、何かに気付いた。この世界でも見かけることが多い。『ある種』の人々を。多くは子供達。少し周りから離れ、周りの者達も対応に苦慮するような人々だ。この表現も言っていて辛いが」
「ええ」
「俺には何かが見えた。そして、もしもその解答が出た場合、この世界は変化する。おそらく『革命』と呼べる何かだ。そしてそれは同時多発的であり、気付かれる事が無いものだ。気付く者がいたとしても、その時には変革は一段階終わっている。気付いた者も次なる変革への一部分として動いている」
「どういうこと?」
「今の俺にもまだわからない。だが、その解答の一部を魔女も掴んでいるように思うんだ。俺は魔女と会わなければならない」
「話せることだけ、話してもらえない?」
「ああ。
俺が見つけたものの幾つかさ。
遺伝子という生命が残す情報がある。これは神秘に満ちた存在だ。
わかっていることの内で俺の興味を惹いたものがあった。
遺伝子は時限装置である。
遺伝子は持ち主の行為によって変容する。
遺伝子は持ち主と近い者と長く居ると、近い者の遺伝子を転写する。
遺伝子は予測不可能な突然変異を起こす。
そして、ある時から模倣子と呼ばれるものの存在も示された。
もしも、模倣子というものにも同じ作用があるとしたら?
扱いは難しいが、感覚が鋭いことや記憶力が強い、ということは何かに気付きやすいということではないだろうか?
時に、何らかの言葉で気づきを呼び起こされることもあるのではないか?
徹底管理された世界で響く言葉……とても古い劇のセリフ……そんな風に……
だが、正直ってこれはわからない。俺も探っていくしかない。未知の領域に踏み込むのは怖いものだからな。きっと、あの作者もそう感じていたんじゃないだろうか?
それに、魔女が現れる前の前兆も話してくれたよな。あれも、もう一度お願いできないか? 頼む」
「ええ、そう……だな。
魔女が出現する際にも前兆があった。その時にも異世界の文字が現れていた。現れた文字を並べるとこうだ。
R E V E N G E A V E N G E R U N N I N G F R E E
読み方はおそらく、『リヴェンジ・アヴェンジ・ランニング・フリー』
意味は……復讐と復讐、自由に走る。もしくは無料で実行中。
何時のころからか魔女の名前をこの文字列から選んで呼ぶようになった。
呼び方は、RAVENNE ラヴェンヌだ」
―――――
なるほど、お前も創り出したか
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