Track #03 Brave New World

Kant van Rollende Steine


 何だかんだ言っても、彼は凄い人だった。獣を狩っては肉を切り分け、調理してその日の糧にする。毛皮や骨は加工の素材として売っていた。売る、というのはちょっと違ったかもしれない。出会った旅人や商人と物々交換していたんだ。それでどうにかなるならいいんじゃないか? 何て言ってたけど、まあ、その通りかな。


「それにしても、その、ウィッカーマンさん……」

「呼びづらそうだな。ウィックでいい。呼び捨てでいいぞ」

「うん。じゃあ、ウィック。魔術師なのに剣を使った戦闘ばっかりっていうのは……何で?」

「さあ、何でかな? ガンダルフもそんな感じだったからいいんじゃないか?」

「ガンダルフって、どんな人?」

「それは……俺たちの世界に伝わる、言い伝えの、中で伝えられる、偉大な魔法使いかな」

「ふーん」


 ウィックは魔術を使う気配がまるで無い。本当にやり方を知らないんだろうけど、でも、なんだろうな。彼は魔術を知っているように思うんだ。


 ウィックと私は時々近くの街へ行くこともあったんだけど、ちょっと街の人達からは好い扱いは受けなかったんだ。やっぱりよそ者っていうことなのか。でも、ウィックが居ると不思議と周りの人達は明るくなるような感じがあった。それでも、扱いはあんまり変わらないんだけど。


 ウィックは街の掲示板には貼りだされない仕事をして、私たちの糧を得てくれた。ちょっとした探し物や、掃除の手伝いみたいなもの。そして報酬は食糧を少々とか、衣服の素材を少々とか。どうせ、お金でこれを買う事になるんだから、これでいいだろう? って言って。まあ、その通りかな。


「なんだか、体が妙な感じで……動きやすいような、動きづらいような……なんだろ?」

「今まで使って無かった筋肉が動き始めたんだろうな。伸びをするとどんな気分だ?」

「痛いような、気持ちいいような、でも痛いような……」

「じゃあ、動かしてよかったんだろう。体も喜んでいるんじゃないか?」

「そうかな?」

「そうさ。だんだん体の中心に軸のようなものが出来ると思うぞ。人の体の中心には大事なものが揃ってる。あれは、真実でもあったわけだ」

「何の事?」

「『精霊の守り人』だな。アニメには描かれてなかったかも……」

「うーん……?」


 私達がある街に居た時のこと。大規模な山火事が起こってしまい、街がざわめいていた。山へ火を消しに向かう者が多数動いていた。私達も何かすべきじゃないか、と言うと、


「そうだな。何かしたいが、それをやると、この街の仕組みに干渉してしまう。それにはちょっとした覚悟が必要なんだよ。だから、一般人の通りすがりとしてやるべきは、この街の後方支援側の手伝いじゃないかな。けが人の手当をする医者の道具をそろえる係とか」

「うん。そうする」


 私達はそんな風に動いていた。街の人達からは感謝され、少し休んでいていいよ、と言ってもらえた。私は街の外れで休みながら、夕闇の中赤く燃える山を見ていた。

 その時、ちょっと呟いたんだ。


「魔術師は、こういうのをひょいっと消しちゃうんだろうな……」

「そうはいかないだろうな。そう言うのをやってしまうと、その存在の影響は強くなる。街や国や世界に大きな変化が生じるんだ。今、この街の人々が頑張って動いている所を見ると、そういう存在は大っぴらに力を行使していないんだろう。多分だぜ?」

「へえ……魔術って難しいんだねぇ」

「きっとそうさ。でも、そうでもないんだろう」

「どっちなの……まったく。じゃあ、みんなが元気になるような呪文でも唱えてよ」

「そうだなぁ……呪文ねぇ……


 ああ、不思議なことが

 こんなに大勢、綺麗なお人形のよう

 これ程美しいとは思わなかった、人間というものが

 ああ、素晴らしい、新しい世界が目の前に

 こういう人たちが棲んでいるのね、そこには」


 それから、私達は仕事に戻った。だけど、しばらくすると風が強くなり、雨が降り出し、天気は嵐になった。

 山火事は収まったのだった。

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