Track #02 Ghost of the Navigator

Lato di Eisernen Jungfrau


 宿屋の一室で俺はミクスと話していた。彼女の話によると、別の世界からの旅人は相当多いようだ。大まかに分けると、その者たちは『とても強い』か『とても弱い』かのどちらかだそうで、俺はどちらなのかを見極めたいようだ。だが、ストレートに聞いて傷つけては申し訳ないと思っているのか、仄めかしながらそれとなく探っているようだ。俺の方が申し訳ない気持ちになる。


「えーと、綺麗なお姉さんが集まる傾向にあって……あなたには、もうすぐ来るのかも……」

「どうも、その気配は無いようだ。俺は『弱い方』に分類されるんじゃないか?」

「うん……でも……あ、そうだ!」

「何だ?」

「ステータス画面を見れば、きっと……」

「ステータス画面? なんだそれ?」

「それを開く魔法があって、それを見ると自分の力が数字になって表れているみたいで……それと特殊な力が備わっていれば、それも表示されるとか」

「そんなもの、どうやって開けばいいかわからないぞ。ステータス画面出てくれ、何て言ったところで―――」


 目の前に何かが現れた。俺の名前と幾つかの数字やアルファベットの羅列が並ぶ。なるほど、これが。視界の端にいるミクスは眼を輝かせている。どうやらこれがステータス画面で間違いないようだ。どれどれ、と俺は眺めていく。そして、


「やめた」

「え!?」


 俺はステータス画面を閉じる。ミクスは口を大きく開けて俺に何かを訴えかけているようだ。


「俺さ……何となく覚えている感じだけど……前の世界では数字で測られてばっかりだったんだ。なんで別の世界に来てまでそうやって測られなきゃならないんだよ。でも、これ、鍛えれば力は上がるって話だろ? それなら、そうやって頑張るから、それで勘弁してくれ」

「う、うん……」


 ミクスも戸惑っているようだ。この子はステータス画面をどう思っているのだろう。常に自分の力が数字で見えることはどう感じているのだろう? もしかして、これを使えるのは別の世界から来た者だけなんだろうか?


「ああ、そうだ」

「なに?」

「今、ちらっとだけ見えたんだけど、俺の職業は魔術師らしい。この世界の魔術師ってどんな存在か教えてくれないか?」

「魔術師は……魔法を使ったり、使い魔を召喚したり……するみたい……」

「どうやるんだ?」

「さあ……?」


 しばし沈黙。徐々に口から笑いが漏れ、二人で大笑いしていた。

 俺たちは明日からの事なんてすっかり忘れていた。魔術の参考にしたい、という理由でミクスの知っていることをたくさん話してもらった。眠気が襲ってくるまでの時間は凄く長くて、あっという間だった。

 俺はベッドの上でさっきの話の一つを思い出していた。



―――――少しだけ見たり聞いたりしただけなんだけど、呼び出される精霊にエアリエルっていうのがいるみたいなんだ。空気の中にいる精霊らしくて、形をもって現れると人の助けになったりするみたい。風の魔法の力の源なんて言われているけど、私にはまるでわからなくて―――――



 そのまま眠ってしまったようだ。目が覚めるとミクスはもう出発のための支度を始めていた。俺は何のために居るんだ。俺もベッドから抜け出し支度をし、二人で宿屋を出た。


 目的の街まで、もう宿屋で休んだり、酒場で食事をしたり、といった豪勢な術は使えない。仕事をこなせば収入は得られるそうだが、仕事をするにも資格が必要で、その資格を得るためにはお金がかかるそうだ。手を出せる働き口には大抵罠が仕掛けられ、仕事をこなしても報酬は支払われないことがしょっちゅうであるそうだ。俺たちは生活の糧を得る為に街道からそれた道を行き、獣を狩り、野宿するサバイバルな道を進むことにした。他に手段もないからな。


 俺に何かが囁くのが聞こえる。いつものあれか……? いや、いつものってなんだ?


―――――だったらわかるじゃろう? ▲▼を創り上げているエネルギーのなかには、旅人である■■■や●●●、おぬしたち自身のエネルギーも混ざっておる。おぬしたちが▲▼に来れば、おぬしたちそれぞれのエネルギーがより強く▲▼に働きかけることになり、従って、■■■が見る▲▼は■■■だけのもの。おぬしが見る▲▼はおぬしだけのものになるというわけじゃ―――――


 きっと、俺は欲望の描き方、出し方がまだ未熟なんだろうな。そして、慣れていないんだ。


―――――だったら、あなたも、この世界で遊んでみれば?―――――


 オンバさまでないことを祈ろう。


 案内人の幽霊が見える。だが、そいつらは失われているはず。


 有漏路(うろぢ)より 無漏路(むろぢ)へ帰る 一休み

 雨ふらば降れ 風ふかば吹け、か……


「何か言った?」

「ああ、すまない。口に出ていたか」

「それって呪文か何か?」

「呪文?」

「この世界の魔術師は魔術を使う時には呪文を唱えるんだよ」

「そうなのか? これは、なんだろうな?」

「他にはどんなものがあるの?」

「そうだな……


世の中は 起きて箱して 寝て食って 後は死ぬを待つ ばかりなり

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