Track #08 The Nomad


Cote de Sommernacht-Fee


 そんなわけで我が主であるウィックはナミアの部下として必死に働き必死に鍛えた。その様子を事細かに描くのが物語というものだろう。だが、いかんせんこの物語の紡ぎ手はその点を描くつもりが無いようだ。


 理由の一つは、その者が日本のアニメにとても憧れており、それに近付きたい願望を捨てきれないからだ。それ故この物語を13話で終わらせるつもりなのだ。もっとも、アニメ1クール13話という構造は絶対というわけではないらしく、9話で終わることもあり、その後、劇場版へ繋がる展開などもあるようだが、その辺りにはついて行けていない。


 他にも理由はあるようだが、それはいずれ作者が何らかの形で明かすのがいいだろう。こういうある種の壁を飛び越えた発言は好き嫌いもあるだろう。だが、作者がこう決めた以上、私はこうする他ない。


 池田屋事件を扱った作品にも『何故こう書いたか、作者にもわからない』と書いてあったこともある。『二人がこの先どうなるか、作者も楽しみな所である』などと書いてあるのも見た。実際、この物語の作者もそんな気持ちを持っているようだが、細かな情景を描くのは別の機会にしたいのだ。


 さて、ウィックの修行と冒険の日々であるが、どれほどの時間が経ったかはあいまいにしておこう。まあ、星が瞬くほどの間か、エルフが瞬きするほどの間ですよ。


 そんな日々の一部を切り取り、皆さまへお届するといたしましょう。


―――

 俺もな……これも、誰かの記憶なんだろうけど。


 俺もお前の様な気持ちだったんだよ。全部を解ってるつもりなんて無いぜ。


 だけどな、俺が目の前のことに必死になっても、周りの奴らはそれを見ていなかった。


 そんなこと今思えば当たり前なんだけど、何故かその時は、周りの奴らも『それがわかっている筈だ』っていう想いが何処かで強烈にわめいていた。


 何を言ってるかわからないよな。


 ……そうか……?


 つまりさ、学校に行けなくて悩んでいると、周りの奴らの様子がおかしくなった。


 それまで猛烈にガミガミ言っていたのが急に大人しくなる。


 俺の様子を必死に窺いだしたんだ。


 その時の俺は優しくして貰えたってことで少し喜んだような気もする。


 でも、ちょっと違ったんだな。


 奴らは俺が学校に行かないことで、自分達が誰かに叱られるのが怖かったんだ。


 だから俺を必死に外へ出そうとした。


 それにまつわる色々もあったんだけど、苦しんでいる本人は放っておかれて、外側にいる奴らがあーだこーだ、どーのこーのってのを繰り返して、結局本人のことは見なくなってしまうんだ。


 だからさ、俺の知ってる世界とはちょっと違うけど、お前の苦しみの一つも『フェミニズム』って奴じゃないかと想像してしまうんだよ。


 女性の権利について語るのはいいと思う。でも、俺が見ていた感じだと、一部の人間が自分が得をするために色々な人が犠牲なってしまったんじゃないかと思うんだ。


 そうやって騒いでばかりいても、幸せにはなれないんじゃないかって思ってた。


 男と女は違って当然だ。権利として平等にするのは賛成だが、なんでもかんでも同じっていうのも変だろ? 何かが劣っているとして、それを補うために男の側がハンデを背負え、みたいなのも妙な話だし。


 だから、映画館の……映画館ってなんだっけ……? まあ、いいか、女性割引のあれもさ、カップルで行ったら男の側にも特典がある、みたいにしてくれたら観客も増えるかもしれないだろ? それから―――



 戦いの合間の穏やかな時間だった。こうやって話しているうちにナミアの顔から湯気が出てきましたね。私が茶化すといつものように……ね。


 参考になる映画 :G.I. JANE (Director : Ridley Scott)


 とにかく彼は、いや、彼らはとても真剣だった。それ故に充実し、苦しんだ。ウィックは戦いや訓練に没頭することでクタクタになる。その度に私と向き合いながら何事かを呟き、再び戦いと訓練に戻る。彼が私に説明するのはこんな具合でしたね。


―――

 何かに集中する、ということは大事なことなんだろう。でも、俺の場合、もしかしたら誰かの場合かもしれないが、俺が今まで見過ごしてきた何かが蘇ってくる。そいつとどうやっても向かい合わないと先に進めないんだ。とても嫌な何か。辛い、痛い、そんな感覚が走る。実際に頭や腹や胸がいたくなるんだから、そう長くは続けられない。でも、止めたら止めたで苦しくなる。どうやっても、こいつからは逃れられないんだよ。だから時々話せる相手がいるのはありがたいよ。お前の様な奴でもな。―――


 茶化しながら照れていると、ナミアが喰いついて来て『私にも話せ』と言った。そんなわけで、この聞き手の役は三分割された。私とナミアとミクスで。


 そんな日々の一幕はこんな感じ。


―――

 どっかで見たような気がするんだけどな。なんだか、上官が部下を殴った後のやり取りなんだが『殴られもせずに一人前になった奴がどこに居るものか』みたいなセリフがあって。


 俺の独自の解釈では、あれは『売り言葉に買い言葉』ってやつじゃないかと思うんだ。色々と状況は違うと思うけど、親に殴られるってのは、ちょっとな……まあ、時代によっては有りなのかもしれないが。


 その、どうにも記憶が曖昧で、うまく思い出せないんだが、何故か湧き上がってくるものがある。言葉にするなら……


 何かの作品で残酷なシーンがあったとしよう。人が暴力を振るったり振るわれたり、殺し合ったりするところだ。でも、それを見続けることができる要素の一つが『音』じゃないかと思うんだ。


 効果音ってやつだろう。あれってさ、残酷な場面でもその辺は聞いていてどこか心地よい音を出しているって想像なんだよ。


 なんだろうな、あの感じ。こう、人が人を殴る際の音って言うのは、『パシッ』という乾いた音がするんだ。する気がするなのかな? その音が連続して響く。静かに響く。そんな感じなんだ。


 こう、物で殴る場合も『ゴン』という鈍い音が連続で響く。静かに響く。そんな感じだ。色々な作品では音が鮮やかなんだよ。そんな感じで……曖昧だな。すまない。


 想像が続くけど、打楽器とかの場合、音を強く響かせることは大事だ。でも、楽器を壊さないような配慮がどこかにあると思う。きっと、手首で衝撃を和らげるようなところがあると思う。もちろんそうじゃ無い場合もあるだろうけど。だから、その辺りの音は安心して聴けることもあるんだ。


 壊す目的でやるにしても自分の側にダメージが来るとまずいだろ。だから、その場合も音は若干柔らかくなる。結構つらいんだけどな。


 もしも、自分の側を破壊してもいいほどの力を込めるとしたら……それか、そんなことを考えないような行為をするなら……?


 その時の音はとても痛い。それは、何処かわかる気がするんだ。それが今俺の中で暴れ続けている。それを、どうにかしないといけないと思っていたりしてな―――


 そんなことを繰り返しているうちにナミアの部隊はさらに強力になっていった。成果を得つつも目立たない術も進化させていく。信頼できる者達を各地に潜り込ませて徐々に自分たちの力を広めていく。どうなるかはわからないが、何かは変わるだろう、という想いの許、皆は動き続けた。中核メンバーはこんなところだ。


 リーダー : ナミア・コーサ

 副官 : ウィッカーマン

 騎士 : ニコ・ジョッシュ・アンキル

 騎士 : エルダ・ヘッグス

 騎士 : ロア・ジェタド

 騎士 : アソーン・デュ・ミント

 書記兼作家 : ミクス

 マスコット : エアリエル

 責任者 : ランケ・シ・オスコイウ


 ということだ。意味不明な役職もあるだろうが、こういうものも必要と判断されて、この形に落ち着いた。


 さて、何かこのグループの呼び名でも考えてもいいのでは、という話題になった。そこで私は『グッドフェローズ』はどうか? と聞くと、ウィックとミクスからは即座にダメだと言われた。その後、ウィックより『セルロイド・ヒーローズ』にしたい、との提案があった。理由を聞かれて、彼が答えるには―――


 まあ、作品の中のヒーローや悪人はその中でずっと生き続けるからな


―――ということだ。よくわからなかったが、なんだかそれでいい気分になったので『セルロイド・ヒーローズ』に決まった。


 そんな日々の中、ナミアは一人馬を駆って走っていた。ある場所へと向かって。きっかけはウィックのある言葉―――


 俺も他人の心を気にしないで色々と動いたり話したり出来るといいんだけどな。人間は本来そういうものなんだし。でも、この心の在り方はもうちょっと踏ん張らないと変えられそうにない。その間は……そうだな、ちょっと酷い言葉を放っても、ありのままの俺ってことで受け入れてくれる人がいるといいんだけどな。俺の気分が落ち着いて謝ることができるまで傍にいてくれる人とか……


 ―――私もそれを傍で聞いていた。後ろの方から『ボンッ』という音がした。した気がしたかな? 何分私は空気や風、音について敏感なもので、そういうのを感じ取ってしまうのだ。さらに厄介なことに私は好奇心旺盛なので、その音がした辺りへ、そしてその人物の後を付けることにしたわけだ。空を飛べるのは便利だね。本当に。


 どうやら、彼女が向かっているのは異世界からこの世界に漂流する者が多く集まる地点のようだ。そこは『赤い領域』と呼ばれているらしい。その一角に研究施設のようなものがある。そこは『赤い領域』を発見、探索した人間が中心となって作った施設で、その人物の名前が冠されている。施設名は『クレアバイブル』というらしい。


 ナミアはその施設では顔なじみのようで、奥まですんなりと通してもらっている。彼女はある部屋に入り、何かを探し始めた。

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