Track #06 Dream of Mirrors

Lato di Eisernen Jungfrau


「あの……ランケ将軍……それは、いったい……?」


 ナミアという女騎士は戸惑っているようだ。俺の存在が知られてからほとんど間がない。根回しをする余裕などないだろう。これから、俺がやらねばならないんだろう。


「先ほど、伝令から聞いたと思うが、任せたいのはこの男だ」

「……彼は、何者です?」


 それから二人は俺達について話し合っていた。俺とミクスとエアリエル、それぞれに視線を移しながら話は続く。


 だが、ナミアの表情は次第に険しくなっていく。特に俺を見る時の視線が強烈だ。怒りやもっと深いものが見え隠れする。さらに口調も激しいものとなる。



「そんな……! 異世界の者など……そんな存在は信じられません! それに……仮にその存在を認めるとしても、軍に迎え入れるなど……!」

「だが、異世界というものの存在はお前もうすうす感じていただろう? それに、私には知られていないつもりかもしれないが、お前の行為のいくつかは――」

「それとこれとは……!!」

「まあ、聞け。怪しい動きを見せたら即座に逮捕、もしくは命のやり取りを任せられると思ってお前を選んだんだ。それに、お前なら、多少の境遇を推し量ることも出来るだろう? 当然、反動も考えての事だ。意味はわかるな?」

「は、はい……承知しました。以後は私が」

「頼む」


 そう言って二人の話は終わった。ランケは俺をナミアに預けるとともに、ミクスに個室を与えると言って連れて行った。残った俺とエアリエルにナミアが近づいてくる。


「貴様は……信用できない」

「そうか」

「魔女の討伐に向かう前に、周辺に潜む怪物たちを倒してもらう。その働きを見てから処遇を考える」

「……わかった。ところで、怪物が居るのか?」

「本当に知らないの?」

「ああ、知らない。山に居る獣とは違うのか?」

「違う。その、正確な違いを問われると困るが、獣や鳥よりも数倍恐ろしい奴等だ。今、そいつらは我が国を脅かしている。それも魔女の仕業だ」

「ふうん」



「ところで、そいつは貴様の魔術で呼び出したものか?」

「ええ、その通りで」

「お前には聞いていない。そっちのウィックとやらに答えて貰おうか」

「ああ、そうだ。俺が呼び出した」

「では、魔術が使えるのは確かなようだ。だが、私の役に立つか否かを見定めなくてはならない。ついてこい」


 そう言ってナミアは歩き出した。俺は彼女について行く。俺の後ろをエアリエルがついてくる。


 ついた部屋に居たのは負傷した兵士だった。腕を怪我している。


「もしも、お前の魔術でこの者の傷を癒すことが出来たなら、後衛としての配属も考える。出来るか?」

「そうだな。やったことは無いが……お前、何か心当たりはあるか?」

「ダックダーミ  ダックダーミ  ダックダーミ」

「なんだそりゃ? 自分で考えろってことか? そうだな……」



 もしかつて仕合わせな日々を送ったことがあり

 鐘の音が教会へと誘う善き地に住んだことがおありなら

 善き人に招かれ、そのもてなしを受けたことがおありなら

 そしてまた、目蓋の涙をを拭ったことがおありなら

 人を憐れみ、人に憐れまれることがどういうものか憶えがおありなら

 それなら、私も力づくの無理押しはやめ

 穏やかに振る舞う事に致しましょう



 俺はそう呟いたが、兵士には何も起きなかった。しばらく悶えた後、気を失ってしまった。医者か癒し手かが兵士に近付き手当を続けた。それを見たナミアは言った。


「どうやら、癒しの魔術については心許ないようだ。次へ向かうとしよう」


 そして俺達は再び歩き出した。



Cote de Sommernacht-Fee


 ちなみに、その兵士は次の日には全快した。その兵士が言うにはこれほど深い眠りに落ちたのは久々で、実にいい気分、とのことだ。兵士の治療にあたった者達も、これほど速い回復は見たことがない、と述べた。


 ナミアと共に歩き回ったウィックは彼女の要望に誠実に応えつづけ、大した事が無いとぼやかれながらもめげること無く付き合った。結局、魔術の腕については役に立たないと判断された。その日は。


 剣や格闘の腕は認められ、怪物討伐へはナミアと共に向かう事に決まった。


 その準備を進めていくうちに、ナミアはやや青ざめることになる。自身の部隊の兵士達が目に見えて強くなっていったのだ。


 探っていくとさらに身震いを起こす事態になった。その兵士達はナミア自身が『こうなって欲しい』と望んでいた通りになりつつあったからだ。そして、兵士達の歩みは今も続いている。


 彼女はウィックの部屋へ向かい、扉を蹴破るかのように部屋に押し入った。


Lato di Eisernen Jungfrau


「一体どういういことだ!? あんな術など……聞いた事が無い!! お前は……お前は一体……!!?」


 部屋に押し入るなり、俺に詰め寄る女騎士。首を絞められそうな勢いだ。徐々になだめて引き離す。


「……もしかして、何かあったか? 俺がやったことで」

「お、お前は……狙っていたんじゃないのか!? いや……狙っていたはずだ!」


 動揺が激しい。どうも、俺が何かしてしまったことは間違いないようだ。


 彼女が落ち着くのを待ち、ゆっくりと話し始めた。


「もしかすると、錬金術の一つかもしれない」

「れんきんじゅつ……? いや、錬金術師の知り合いは何人かいるが、やっていることは薬の調合や武器の手入れの手伝いなどで、こんなことが出来るものはいない」

「うん。そうかもしれないな。だが、この力の一部は『賢者の石』から貰ったものかもしれないんだ?」

「けんじゃ……の……いし……?」

「正確にはその手に入れる方法、その解釈の再解釈のアレンジの再構成ってところだな」

「な、なにをいっているか、わ、わからない……!」

「あれだな。ホグワーツに隠された際の入手方法さ。ダンブルドア校長の知恵だな。


 それを心底必要としながら、使おうとしない者だけが手に入れることが出来る


 こんなところだな」


 それからナミアは口をパクパクさせながら俺の部屋に居た。話せるようになるまで結構時間がかかったな。

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