Track #04 Blood Brothers

Lato di Eisernen Jungfrau


 一夜明けてから、俺達は恐る恐る話し始めた。ミクスの方から話しかけてくれたんだ。


「ねえ、昨日のって……」

「もしかすると……」


 それを言ってからまた黙る。しばらくして話す。その繰り返し。


「でも、天気なんて予想は付かないもんだし。急に変わることもあるし……」

「そうだな。そうなんだろうな。この世界でも……」


 働いたことへの礼か。もしくは、大きな事件に偏見の感覚が一時掻き消されたのか。昨夜俺達はすんなりと宿に泊めて貰えた。事態の調査や被害の対応に街がにぎやかになっている。俺達は今のうちに街から出て行くことにした。そうやって歩いていた時だ。馬に乗った者が一直線に俺達に向かってきた。街の者達もそいつを避けていく。大きく馬が嘶くとともに、その男は俺達の前で止まり、大声で語り掛けた。


「昨夜の魔術を使った者はお前か?」


 俺はその男を見る。姿勢が整い、声に覇気がある。手強そうだ……って何を考えている。きっと前の世界では最初から敵になった場合のことを考える性格だったんだな。そいつは真っすぐに俺を見据えて視線を外さない。俺は応えた。


「……もしも、昨夜の嵐が何らかの力によって引き起こされたなら、その原因の一つは俺かも知れない。そうとしか言えない」

「なるほど。慎重でありながら、洞察を企て、それでも絶対は無いと見て発言や行動にも配慮する。相当な賢者か、臆病者だな」

「……聞いていて、いい気分じゃないぞ。そもそも、お前は何者だ?」

「申し遅れた。私はタ・ルカと申す者。この国の魔術の動向を見定める役目に就いている。お前達を逮捕し、裁判にかけるまでの権限も持っている。その上で問う。我らの神々の力に干渉する、お前は一体何者だ?」


 俺はその男の目をじっくりと見据え黙る。しばしの思考の後に応えた。


「あなた、錬金術師ですか?」

「違う。私は魔術の行方を見定めるのが役目だ。強いて言うならば、魔法司(まほうし)だ」

「……そうだな。正直に話そう。俺は少し前に別の世界からやって来た者だ。この世界の仕組みをほとんど知らない。昨夜は『山火事がどうにかなって、みんなが幸せになればいいな』と思って、幾つかの言葉を呟いた。もしかしたら、それがあなたの言う魔術かもしれない。わかるのはこれだけだ」

「ふぅむ……」


 男は馬上で考え始めた。俺への警戒も怠っていない。周囲を見ると、配下らしきものが多数見えた。ミクスを連れて逃げ出すのは困難だな。


「もしや……だが……そうだとしても……うーむ……」

「察するに、『前兆』でもあったかな?」

「わかるのか?」

「まあ、似た世界の話を聞いたまでだよ」

「うむ。手荒な真似はしたくない。出来れば私と共に来てもらいたい。歓迎とはいかないが、牢に入れることもしない。そちらの子どもも我らの監視下に入ってもらいたいのだ」

「ミクス。いいか?」

「う、うん。いいよ」


 半ば強引にミクスの承認を得て、俺達は、タ・ルカの手勢に連れていかれることになった。


 タ・ルカ、という男はこの国の中枢で重要な役目を担っているようだ。つまり、俺達が連れて来られたのは、この国の首都だった。実はミクスが行こうとしていた街も首都から近い。もしも、国の連中の扱いが温和なものなら、この騒動に決着をつけた後に、穏やかに目的の場所へ向かう事も出来そうだ。この世界の神様は意外と優しいのかもしれない。


 豪勢な建物。恐らく『王宮』ってところだろう。その一室に俺とミクスは入れられた。扉の向こうには監視の兵士がいる事だろう。俺達は寝床と食事を得られたことに感謝して、眠ることにした。


 だが、ミクスは急激に環境が変わったことで寝付けないようだ。まあ、俺も似たような経験がある……ような気がする。少し離れたところで横になりながら、ミクスの話を聞いていた。


「ねえ、ウィックの話も聞きたい」

「話って言われてもな。なんだか頭の中がぼんやりしてしまうんだ。うまく行かないんだよ」

「うん。じゃあ、お話。何かウィックが作ったお話を聞きたい」

「そんなに上手いものは思いつかないけど……」

「下手なのがいい。私、そう言うのが好き」

「そうか…… それじゃあ……



 むかしむかし、あるところに、コジローという名の剣士が居ました。


 その剣士は、武芸の道を極めようと戦い続け、ある男と対決します。


 結果、コジローは破れ、命を絶たれてしまいました。


 コジローの魂は天国へ旅立つ前に、気付きました。


 自分が望んで戦っていたのではなく、戦わされていたことに。


 そして、その時になって恨みの力を目覚めさせたのです。


 天国へ向かう事を拒み、この世界に恨みの力をまき散らそうと決意します。


 最初は恨みの種は弱いままでしたが、徐々に芽吹き、強くなり、恐ろしいほどに大きくなりました。


 その結果、魔獣コジラーが世界に現れてしまいます。


 コジラーはその世界の様々な場所で、そこに住む人々が最も恐れるものを学習し、自らの力に変えて行きました。


 人々は生き残るために、必死に戦います。


 コジラーと戦ううちに、人々は自らが恐れるものを探り始めました。


 そこには、コジラーを倒すためのヒントがとても多く含まれていたのです。


 そこから得られた武器を手に、人々は戦い。コジラーを倒しました。


 ですが、人々は気付きます。


 コジラーは自分たちが手にした力に寄生している事に。


 いずれ、この力から新たなコジラーが生まれ、自分たちを襲いに来ると。


 人々はその時の為に備えます。


 備えるとは、即ち、自分の気付きを大事にすること。


 そして、時々思い出し、忘れること……」




 そんなことを語りながら、俺が眠りに落ちてしまったようだ。


 朦朧とする中、何かが聞こえた気がした。

 英語の歌かな……

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