素晴らしい異世界と、通りすがり。

風祭繍

Track #01 The Wicker Man

Lato di Eisernen Jungfrau


 目を開けた。日差しを眩しく感じる。だが、おかしいのがわかる。私は、何故ここに居る? 


 日の光が暖かい。肌に感じる風が心地好い。こんな感覚は久しぶりだ。というか初めてじゃないだろうか?


「あ、あの!」


 傍らから声がした。そちらに目を向ける。小さめの体、高い声。子どもか?


 そして自分の状態を確認する。どうやら私は地面に仰向けになっているようだ。体を起こして少女の方を向く。


「こ、応えてくれたんですよね!?」

「うーん……?」


 問いかけの意味がわからないので答えられないでいる。応えた? 何に?


「すまない。俺にはよくわからないんだ。ここは……どこだ……?」

「え、えーと……その、私、ちょっと困ってて……それで、私の家に伝わるお祈りをしたら、急にあなたが現れて……だから……」


 目の前にいる子どもは戸惑いながらも興奮しているようだ。俺は少しだけ考えてから聞いた。


「なあ、ここは天国か?」

「え、えーと……違います」

「俺は生きているのか?」

「は、はい。生きてます!」


 どうもよくわからない。そもそも、俺は何で生きているかなんて質問をしたんだろう? だが、何となく頭に浮かんでくる。少し前に大変なことがあった。俺に酷い事が起こった。そして、それに関するおぼろげな記憶がある。これは、いったい……


「すまないが、俺がお前のお祈りに応えられたかはわからないんだ。でも、きっとお前に呼ばれたんじゃないかと思う。少し話し相手になってくれないか? そうしたらちょっとは協力するよ。出来ることしか出来ないと思うけど」

「は、はい。お、お願いします!」

「ああ、ありがとうな」

「あの、あなたの名前は?」

「ああ、そうだった。名前……名前は……ラスチャ……!! いや、違う!」

「え?」

「名前……俺の名前は、ウィッカーマンだ」

「ウィッカーマンさん……?」

「ああ、そうだ」

「私はミクスと言います。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 そのまま俺達は話していた。どうにか想像がつくところは、俺は別の世界からこの世界に呼ばれたらしい。少し頭に残っているのは元の世界の記憶だろう。ミクスと話しているうちにその記憶が鮮明になってきた。徐々に何かが沸き上がってくる。なんとかやっていけそうな気になって来た。きっと、ここでも大丈夫だろう。


 このミクスという少女は故あってある街まで旅をしなければならないそうだ。両親がすでに亡くなり、援助してくれる人もおらず、どうにか孤児の世話をしてくれる街へ行くにも供をしてくれる人も居なかった。危険を冒してでも一人旅をしようと決意し、この世と別れるつもりで彼女の家に伝わる祈りを捧げたら、俺が現れた、ということらしい。


「なあ、その祈りって、どういうものなんだ?」

「それは……」

「ああ、聞いちゃまずい事だったか? それなら、無理に言わなくて大丈夫だ。すまなかった」

「う、ううん! あの、ちょっと待ってて」


 そう言って少女は、少し離れた場所に立ち呼吸を整えた。そして歌い出す。


 俺は唖然としていた。だってそれは……


「英語か?」

「『えいご』っていうの? この言葉?」

「ああ、そうだ。そのはずだ。だけど……俺が今話している言葉は……?」

「うん。私達の言葉。どうしてわかるの?」

「ああ、どうしてわかるんだろうな?」

「不思議だね」

「不思議だな……」


 結局俺にも何もわからなかった。俺に一体どんな力があるかもわからず、二人で途方に暮れる羽目になった。


 話し合った結果、ミクスが持っている全財産を使って近くの街の宿屋で一泊することにした。明日からはサバイバルな日々を送ることを二人で覚悟した。だが、ミクスの表情が明るいのが癒しだ。俺なんかで頼りになるだろうか? だが、やってやるさ。

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