第4話 負担と不安

「うちの娘は面倒だぞ! それでもいいならもらってやってくれ!」


 

 子供のような無邪気な笑顔で父は彼に笑う。そして、これが初対面の父の、彼への言葉だった。


 関西から出張で関東に訪れた時。私と彼は共通の友達の夕食会で出会うことになる。


 いわゆる、一目惚れという病に彼が落ちたのだ。


 関東に拠点を置く彼は、とにかく早く一緒になりたいという想いが強すぎた。挨拶は北は青森。西は大阪。行ったり来たりとするにはあまりにも時間がなかった。時間の都合で私の両親とは空港で挨拶をする事になったのだ。そのまま昼の便で彼の家族への挨拶もあったから、本当に少しの時間での顔合わせとなった。彼には理由があり、沢山の時間を作れない。私はその理由をさして気にしなかった。彼と一緒にいれるならと、気にもならなかったのだ。


 その一方的な彼の言葉を、うちの両親は飲んだのだ。

 そして、急ぎで籍を入れる事になった。


 こんなのは非常識だって、ふたりは痛い程に理解していた。


「次に会う時はゆっくりと酒でも飲もう!」

 父は笑い、隣の母は何も言わず、優しい笑顔を浮かべ、片手を小さく振った。


 うちの両親はこのような人たちだった。ゆったりと愛情と言葉をそそぐ母と父。

 これがいけ好かない彼の両親は、両家が集まることを拒否した。もちろん、挙式はおろか披露宴もしないと言われた。


 でも、私も彼もそれでよかった。私たちは親族と結婚するわけではない。私たちは若かった。先の事などお構いなしだったのだ。ただ一緒に、たくさんの時間を過ごしたかった。それだけだった。


 それから数年が経ち。

 彼の病気が発覚することになる。


「俺……これじゃ詐欺師みたいだね」

 そう笑って、彼は眉根を下げた。

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