第7話 何色に築くかは誰にも分からない
青い空は白く濁る。そして徐々に不穏を纏い鼠色の雲を引き寄せる。肌に冷たく湿度を重ねていく。もう梅雨が来るのね。
呼んでもいないのに。
泡沫の夢を見るように白昼を漂う。くすんだ空がビルの上空を器用に隠した。病室は白く無機質。グラスの中の水が跳ねたように私には見えた。
「窓を開けてくれる?」
「どうして? 雨が吹き込むわ……」
「いいんだよ……それでも……」
「……うん」
「……永遠に分かり合えない事も人にはあるんだよ」
「また、そういう事をいうのね?」
「これは僕の哲学だよ」
「……ふふふ」
この目に映っていた、悪戯なあの言葉は永遠に残るのね。
忘れたと思っていても、ふとした瞬間に戻ってくるの。記憶は、お節介でお馬鹿さん。知らないフリして生きてやるんだ。そうしないとずっと泣いてたでしょ? 私。
沢山の本に続きがあるって、あの時、言ったよね。そうだって今なら思えるわ。
本の中で物語が終わったとして、きっと何処かで、その物語の人物たちが生活してるって思いたいわよね。私は、そう思う。
『もしも、これを読む頃に僕が居なくなっていても君は前を向いて生きていて欲しい。僕は君を愛しているよ。これがとても勝手な事だって理解しているよ。君の片隅にでも僕を残しちゃいけないよ? 君はもっと自信を持った方がいい。僕が風なら君は太陽だった。僕が赤鬼なら君は青鬼だったよ。君が仕立て屋なら僕ははだかの王様だったよ。上手く例えれられない僕を許して欲しい。似ていなくても僕らはとても似ていたんだ。僕らが出逢ったことは奇跡じゃないんだ。神様なんていなくても、僕はきっとまた君を見つけるから。それまで今と変わらずに器用に生きていて欲しい。精一杯生きていて欲しい。また僕と君が出逢えるその時まで。』
あの本に挟まれていた、途切れ途切れの伝えたいだけの言葉たち。馬鹿な私には、難しいのよ。
人の離婚届に今日も私は判を押すの。人にとって、これも次への行為でしょ? 何処にだって行けるわよ! だって物語は続くんですもの。そうでしょ?
記憶模様 櫛木 亮 @kushi-koma
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