第6話 忘れ物

 部屋がとても広く感じる。


 この数ヶ月、何も手につかない程に憔悴し切るほどの可愛らしい女でも私はなかった。色々な手続きや荷物整理。泣く時間も寝る時間も無かった。でも、それで良かったんだと思う。それで気が紛れた。


 膨大な数の本が嘲笑うように、私を大きな本棚から見下ろす。難しい本。私が読まない本。それでも手放せないでいた。


「僕にとって本は一生の宝物なんだ!」


 そんなことを言いながら、無邪気な笑顔を見せた貴方。正直にいうと、どうでも良かったのよ? でもね、その笑顔と貴方は世界でいちばんだった。誰にだって自慢できる貴方だった。誰からも愛される人だった。


 私とは……違った。


 孤独が好き。誰かと何かをするよりも、ひとりで何かをしていることが好きだった。海に行くよりも山を好む。でも、自然も嫌いだった。都会の雑音のほうが楽な時もあったくらい。

 誰かに、なにかに、馴染むことは難しいこと。苦手な事はゴマンとあるのに、好きなことは少なかったの。


 そんな私に色んな事を教えてくれたのも、貴方だったね。図書館や本屋での楽しみ方を教えてくれたのよね。貴方は覚えないかもだけどね。


 机の上に置いてあった、大きくて分厚い洋書。世界中の石の写真が眩しいほどに輝いていた。外国の言葉で何が書いてあるのかは分からないけれど、貴方がとても大切にしていたのを私は知っている。重い表紙を捲ってみる。私は数ページ目かで何かが挟まっている事に気がついた。



 それは、一枚の便箋に所狭しと書かれた、私への手紙だった。

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