第2話 白い冬は抱きしめるに値しない冷たいフリを呼ぶ。

「そば入りと、そうじゃないのどっちにする?」


 

 ホットプレートの前で、僕は今にもこぼれ落ちそうな笑顔を君に向ける。


 関西風と広島風を聞きたかった僕に気を使ったのだろうか、どちらも好きじゃない癖に「そば入り」を注文して、彼女はビールを渇ききった喉に一気に流し込んでいく。


 あの時、君は言ったね。


「ずっと傍に居るから、傍に居てね」

 と。


 

 僕はその言葉を、約束を。

 守れそうにないよ。

 

 まだ冷たい灰色の空を、病室のベッドの上で見つめる。


 ここは都会より少しだけゆったりと過ごせる街だ。不十でもなく、娯楽に囲まれた場所でもない。


 この病室から見える景色には、春になるとソメイヨシノが咲き乱れると看護師さんが笑う。


 見れるといいな。

 灰色の空を再度見上げて僕は思った。


 意地っ張りの君をひとり残すのは死ぬことよりも辛い。君は強がっていつもいつも笑うんだ。食べきれもしないパンをたくさん買い込んで。あとくちが苦いと言っていた、飲めもしないペリエを数本持ってくる。


 それから、読めもしない物語をたくさん持ってくるんだ。


 書店で時間を掛けて過ごす事が好きだった僕に、気を効かせた君はいつもつまらなそうに居たね。気がついてないと君は思っていたね。

 いつも分からない話にも笑顔で返してくれていた。


 そんな君から笑顔を盗んだのも、僕だった。



「大丈夫! 絶対に大丈夫!」


 その根拠の無い「大丈夫」が、どれほどに辛かったかも。君は知らない。


 僕は君に生きていてほしい。

 だからね、一通の手紙と雀の涙程度のお金を残したよ。


 あとは、君がどう生きて、どう進むかは僕は見れないんだね。


 とても、それが残念だ。


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